お金の不安、どうしたら解消できる?
 長期化、高年齢化したひきこもりのお子さんを抱えるご家族には、お金の不安が重くのしかかってしまいます。お金の不安はあるけれども、何から始めればよいのか分からない。そうおっしゃるご家族は多いです。一体どうすればよいのでしょうか。

親の収入で何とか生活できているけれど…

 全国に約61万3000人。これは、3月29日に内閣府から発表された40歳から64歳までの中高年のひきこもりの人数です。ひきこもりの期間が10年以上の割合は36.1%で、ひきこもりが長期化していることが明確になりました。また、父や母に生計を維持してもらっている割合は34.1%。中高年のひきこもりの3人に1人は、親の収入で生活している状況にあります。
 筆者は、長期化、高年齢化したひきこもりのお子さんを持つご家族の相談を受ける仕事もしています。今までに、さまざまなご家族の相談を受けてきましたが、どのご家族もある共通した不安を抱えていました。それは「お金」についてです。今は親の収入で何とか生活できているけれど、親亡き後、お子さんのお金はどうすればよいのか。そうした不安を抱えながら日々過ごしているご家族は多いです。
 母(76)とひきこもりの息子(50)で2人暮らしをしているAさんご家族も、お金について不安を抱えていました。
「うちの息子は普通に働くことが難しく、お金のことについて考えると不安になってしまいます。今から何かできることがあるかもしれませんが、それが何なのかも分かりません。一体どうしたらよいのでしょうか」
 そう語るAさんは、とても追い詰められている様子でした。

お金の不安は、あえてはっきりさせてしまう

 不安が漠然としたままの状態では、何をしたらよいのかも見えてきません。(1)何をしたらよいのかが分からないので、何も行動できず、何も変わらない(2)不安だけが募っていき、どんどん追い詰められていく、という形で身動きが取れなくなってしまったご家族は多いです。そこで、あえてお金の不安をはっきりとさせてしまうことも時には必要なのではないかと筆者は考えています。
 具体的には「親亡き後のお子さんのお金の見通しを立ててみる」ということです。お金の見通しを立てるときは、以下の手順で行うとよいでしょう。
・親の財産を洗い出す
・お子さんの収入を確認する
・親の財産とお子さんの収入で、親亡き後のお金の見通しを立ててみる
 それでは、Aさんご家族のケースでみていきましょう。
【母Aさんの財産】
・現金 400万円
・自宅 土地付き戸建て 1800万円
 現金は400万円で心もとない状態です。そこで、ご自宅について伺うことにしました。すると、Aさんはこう言いました。
「今ある自宅は、息子1人で住むのには大きすぎると思います。家が大きいと修繕にそれなりのお金がかかりますよね。息子もそれは分かっているみたいです」
 もちろん、お子さんの意思確認が必要ですが、母亡き後は自宅を売却し、住み替えも視野に入れておく必要があることが分かりました。

国民年金保険料は免除の可能性も

 次に、お子さんの収入について確認することにしました。将来の収入は主に公的年金です。老齢年金について確認すると、Aさんは視線を落とし申し訳なさそうに語り始めました。
「主人が亡くなるまでは、息子の国民年金の保険料は毎月支払っていました。しかし、1年前に主人が亡くなった後、毎月の保険料が負担になり、支払うのをやめてしまいました…」
「え? そうだったんですね…ですが、日本年金機構から督促状が何度か届きませんでしたか。中の手紙を見ると『一度相談に来てください』という内容もあったと思いますが」
「怖くて封を開けることもできませんでした。仮に相談に行っても『保険料を払ってください』と言われるだけだと思ったので、何もしませんでした…」
 確かに、ご主人亡き後のAさん家族の収入は厳しいものになってしまったことでしょう。国民年金の保険料は1カ月当たり1万6410円(2019年度)。決して安くはない金額です。しかし、このまま何もせず未納の状態にしておくのは好ましくありません。Aさんご家族の収入を確認したところ、Aさんの年金収入以外に収入はなく、遺族年金が150万円、老齢年金が70万円ということでした。
 そこで、私は次のようにアドバイスしました。
「Aさんご家族の場合、国民年金の免除申請の手続きをすることによって、全額免除になる可能性がかなり高いと思われます。仮に、全額免除に該当した場合、毎月の保険料は0円になり、将来もらえる老齢基礎年金は年額で約800円ずつ増えていきます。免除申請は現在から2年1カ月前までさかのぼって申請ができますから、まだ十分間に合いますよ。何なら私がお手伝いいたしましょうか」
「そうなんですね。全然知りませんでした。未納にしていることがずっと心にひっかかっていたので、安心しました」
 お母さまは、ホッとしたご様子でそう言いました。
「では、さらにお子さんの将来のお金の見通しを立てていくことにしましょう。次に生活費の見通しを立てていきますが、そこでもいろいろと課題が出てくると思います。どのようにしていけばよいのか、一緒に考えていくことにしましょう」
「はい。ぜひ、お願いします」
 このように、お金の見通しを立てていこうとすると、ご家族ごとにさまざまな課題が見えてきます。その課題に対して、時には専門家も交えて対策を考え、一つ一つ実行していく。お金の不安は完全にはなくならないかもしれませんが、漠然としたままの不安を抱えて日々を過ごすよりは、よほど気持ちが軽くなると思われます。