「借金は悪」「少しでも早く返さねば」と考えるのはかえって危険かも(写真:tomcat/ PIXTA)
今年(2019年)10月に、消費税が増税されることはほぼ既定路線となった。それに伴って住宅ローン減税の拡充も決まった。建物部分にかかる消費税の2%分、つまり増税分を従来の減税分に上乗せして消費者に返す仕組みとなる。
結果として増税前でも後でも税金による損得はなくなったと考えていい。消費税に関係なく、欲しいタイミング欲しい物件を無理のない範囲で買えばいいということになる。
住宅購入で多くの人が勘違いしていることに「短期間で返済することが正しい」というものがある。住宅ローンの借入期間は通常35年が最長となるが、「それよりも短く返済したほうがいい」「できるだけ借入期間は短いほうがいい」といった考え方だ。そんなアドバイスをフィナンシャルプランナー(FP)がすることも珍しくない。短期間で返済したほうがいいことはわざわざ論じるまでもない常識、と考えている人も多い。
最初から借入期間を短くする、あるいは繰り上げ返済で借入期間を短くする……借入期間が短ければ利息負担が少なく得をすることは間違いないが、決してメリットだけではない。かえってハイリスクになると断言してもいい。

20年ローンと35年ローン、返済額の差は?

分かりやすくするため、20年ローンと35年ローンで借入期間に長めの差をつけて比較してみたい。
前提条件として、借入額は4000万円、金利はフラット35で35年ローンは1.270%、20年ローンは1.210%で試算する(執筆時点、2019年4月の金利で計算。フラット35Sは除外。20年で返済の場合はフラット20が適用され金利がわずかに下がる)。
この数字で計算すると、毎月の返済額と返済総額、そして住宅ローン減税(控除※)を考慮した実際の支払総額は20年ローンで約4207万円、35年ローンで約4608万円だ。
※年末の住宅ローン残高の1%が10年間、所得税・住民税から差し引かれる
毎月の返済額は35年ローンが約11.8万円に対し、20年ローンは約18.7万円とかなり多いが短期間でなおかつ低金利で返済することになるため、35年ローンと比べて返済総額で400万円も得をする(毎月の返済額は住宅ローン減税を考慮せず)。損得で考えれば圧倒的に20年ローンが有利であることは間違いない。
しかし「資金繰り」、つまり手元資金の推移で考えるとまったく異なる数字が見えてくる。

2つのローンの返済額

20年ローンと35年ローン、2つのローンの差額は月額で約7万円、1年間では約84万円となる。つまり35年ローンは20年ローンと比べて年間80万円以上も支払額が少なく、その分だけ手元に多くのお金が残せる。
住宅購入のタイミングは、結婚して子どもが生まれてから小学校に入学する前までが特に多い。購入から10年後、つまり子どもが大きくなって中学校に入学する前後の頃には20年ローンと35年ローンの支払総額の差は、住宅ローン減税を考慮すると約885万円となる。つまり35年ローンのほうが手元に残るお金が約885万円も多い。
高校を卒業して大学進学のタイミングと重なる15年後で考えれば差額は約1304万円とさらに広がる。この金額は2人の子どもを手持ちの資金だけで大学に進学させられるか、奨学金を借りるか、というほど大きな差だ。
そして20年後、20年ローンは当然ながら完済して約4207万円を支払っている。一方、35年ローンはまだ約2484万円しか払っていない。この時点で35年ローンは20年ローンより手元資金が約1722万円も多い。グラフにしてみると一目瞭然だ。

※住宅ローン減税を考慮して計算
累計支払総額の推移をグラフで見て、双方とも完済した時点の支払総額を比較すると、前述のとおり20年ローンのほうが400万円ほどお得だ。しかし、途中経過を見ると支払額には大きな差が生じている。返済開始当初は、20年ローンの支払い総額のほうが35年ローンのそれと比べて突出して多い。
グラフにしてみたときには「なんだかおかしい」と感じる人も少なくないかもしれない。「返済総額が少ない20年ローンのほうが支払い額が多い……?と混乱してしまうかもしれない。これが資金繰りを考える際に最も重要な点だ。
結果的には20年ローンのほうが支払総額は少ないが、「途中経過」を見ると35年ローンのほうが支払額の少ない期間がずっと続く。35年ローンの支払額が20年ローンの支払総額である約4207万を追い越すのは33年目になってからだ。つまり損得と資金繰りはタイミングがズレる。
ゆっくり返すということは利息の発生する期間が長いことを意味し、つまりそれだけ返済額が多い。それでも返済期間中はゆっくり返済することになるため、貯金をためやすい。資金繰りを重視した住宅ローンの資金計画とは、結果だけではなく途中経過も重視して返済することを意味する。
「うちは収入が高いから大丈夫」と考えて短期間でローンを組むとどうなるか。貯金はまったく増えず、大学進学を考える頃には貯金が極端に少なく、加えて日本学生支援機構の奨学金は所得制限もあって奨学金が借りられない状況に陥りかねない。結果的に金利の高い教育ローンを組むことになるかもしれない。

期限の利益で考えてみよう

返済が遅れない限り当初の契約に従って時間をかけて借金を返済していい、という状況を「期限の利益」という。言葉通り、ゆっくり返すことはお金を借りた人にとっては利益がある状況だ。街金が舞台の漫画「ナニワ金融道」では、一度でも返済が遅れた人に「今すぐ全額を返せ!」と迫るシーンが多数出てくる。その根拠となるのが「期限の利益」の喪失だ。契約内容によっては、返済が滞った場合はすぐに全額返済をするように定められている場合がある。
家を買う際にローンを組む理由は、大抵の人が現金払いで買えるほど貯金がないからだ。そこでお金を借りて家を買い、長期間返済を続ける。
多くの人が勘違いしているが、お金を借りられること、そしてゆっくり返していい状況は借り手の権利であり利益、つまりメリットだ。とくに低金利の現在はそのメリットが昔よりさらに大きくなっている。もともと手元のお金が少ないから借金をしているのに、慌てて返済をするのでは何をやっているのかまったくわからない。
借りたお金は必ず返さなければいけない一方で、将来の収入は未確定だ。したがって借金はないに越したことはない。しかし一度ローンを組んだ場合、返済を急いで手元のお金を極端に減らすとかえってリスクが高くなる。なぜなら企業でも個人でも、破綻するのは支払いができなくなったときだからだ。
借金はしないに越したことはないが、借金をした後はゆっくり返したほうがいい場合がある。つまり借金をする前と後では認識を変えたほうがいい。それにもかかわらず、借金をした後も「借金は悪」「少しでも早く返したほうがいい」という行動をとってしまうとかえって危険な状況に陥ってしまう。
多少損をしようと手元にお金を残して支払いを確実にできる状況にしておくこと、つまり資金繰りを優先することは、企業の経営者にとっては常識だが個人の借金返済では常識ではない。そもそも個人の借金で資金繰りを意識している人は極めて少ない。個人でも法人でも破綻するのはショートしたとき、つまり資金繰りが止まったときにもかかわらずである。
現在では、住宅ローンの借入期間による利息負担の違いや、繰り上げ返済で利息はどれくらい減らせるかといった計算は金融機関に出向くまでもなくネット上のシミュレーターで手軽にできる。今回事例に書いた計算も簡単に再現できると思うが、重要なことは損得とは別に「資金繰り」という視点があると知ることだ。

早めにローンを減らし教育費負担に備えるという勘違い

短期間で返済を終えようとするとお金の出ていくスピードが速くなる。早めにローンの返済を終えて将来の教育費負担に備える(とくに負担の大きい大学費用)、と考えている人も多いと思うがそれは完全に間違いだ。早めにローンを終えると、かえって手元のお金が大幅に減り、教育費の支払いに困ってしまう。
今回のシミュレーションは20年ローンと35年ローンを比較したが、35年ローンで毎年繰上げ返済(期間短縮型)をどんどん行えば、20年ローンに近い状況へとなっていく。
もちろん想定以上にお金が余り、子どもが独立して教育費の負担が終わり、それでもなお何千万円も貯金が残っていて使い道もない……。そんな状況ならば繰り上げ返済でローンの支払いを終えてしまってもいいだろう。
しかし、子どもがまだ小さく貯金はそれほどたまっていない、進学先も確定しておらず教育費の負担が重い大学進学時の費用がどれくらいかわからない、収入についてもどこまで勤務先が安定しているか不透明……そんな状況ならば資金繰りを優先して手元にお金を残したほうが無難なのだ。

短期でローンを組むことは実はリスクを高める

少なくとも家を買う時点ではほとんどの人にとって、将来の状況は不確定だ。短期でローンを組むことは実はリスクを高めることでしかない。そして一度ローンを組むと後から返済期間を延ばすことは簡単ではない。35年ローンはゆとりがあって貯金があると無駄遣いをしてしまいそう、という人もいると思うが、それは単純に将来の教育費などを把握していないだけだ。
どうしても無駄遣いをしてしまいそうだという人はどうしたらいいか。例えば、今回比較した20年ローンと35年ローンの差額である約7万円を将来の繰り上げ返済や教育費のために毎月預金にして一切触らないでおく、といった方法でもいい。とにかく資金繰りは最優先すべきと伝えておきたい。繰り返すが家計が破たんするのは支払いが止まったときだ。
結果的に資金繰りに問題は発生せず、手元に多額の資金が残ったとする。やっぱりあんなFPの言うことなんて無視をして短期間のローンを組めばよかった……と、後悔するような状況になったらどうすればよいか。そのときに繰り上げ返済を考えても遅くはない。繰上げ返済の効果はできるだけ早く行ったほうが高いことは間違いないが、10年後、20年後でも十分効果はある。
何年のローンが最適か、繰上げ返済はいつを行えばいいか、どちらも個別の事情によって変わる。ただし、1つだけ言えることは「資金繰りの観点を入れるだけで住宅ローンに関する判断は大きく変わる」ということだ。