日本人はお金持ちを気持ちよくさせるのが下手すぎる。年収1億円以上稼ぐ中華系の販売員が実践する「共通の法則」とは?(写真:Stephen Chin Photography/PIXTA)
ファイナンシャルプランナーの花輪陽子です。私の暮らすシンガポールでは、大口のホールセール(法人向け)ではなく小口のリテール(個人向け)の金融ビジネスを担当する銀行員や保険外交員の中にも、年1億円以上のコミッション(契約手数料)を稼ぐ強者の販売員がいます。世界中の優れた金融プロフェッショナルの独立組織「ミリオンダラーラウンドテーブル」(MDRT)の会員に選ばれ、所属している人も少なくありません。
そんな億単位で稼いでいる中華系のセールスたちは、個人のお客様に対して、どのようなことをしているのでしょうか。実際に話を聞いたり身近に接したりするうちに、彼らが実践している「共通の法則」が見えてきました。その法則の中から、いくつかご紹介しましょう。

パーティーで出会った顧客候補と速攻で個別面談を約束

シンガポールで華やかなイベントやパーティーに出席すると、個人の中でも「エグゼクティブ」を専門にして、億単位のお金を稼いでいる中華系セールスと知り合うことがあります。
そんなとき、私が「ファイナンシャルプランナーをしています」と自己紹介するやいなや、「ぜひ個別にお目にかかりたいです!」とアポを申し込んでくる人がいます。私のことをエグゼクティブと間違えた理由は知りませんが、とにかく初めて会ったその場で、次回のランチの予定をブッキングしてしまうのです。
これが日本だったら、パーティーでは名刺交換するだけ、後のことは帰ってから……というパターンが大半でしょう。ところが、シンガポールの億単位を稼ぐセールスたちは、一味違います。「目ぼしいお客様」を見つけたら間髪入れずにアポ取りをするのです。若手のセールスの中には、名刺交換すら時間の無駄だと思っているのでしょう、すぐにビジネス特化型のSNS「リンクトイン」(LinkedIn)で詳細なプロフィールを交換してつながり、アポを入れてしまう人もいます。
そんな素早いアポ取りと同じくらい、私がシンガポールで面食らったことがあります。どんなサービスでも、最初の提示金額が異様なほど大きいのです。
エステサロンで「100万円」のパッケージから提案されたことがありました。整形手術を頼んでいるわけでもないのに……。「そんなに支払えないわよ!」とやや強く言うと、「半額ではどうか」とドカンと下げてきます。結局、4分の1の金額まで下がったところで手を打ちましたが、不思議なことに「このエステ、お得な買い物だったわ」と思ってしまいました。一種の錯覚といえるかもしれませんが、こういう商談の仕方がシンガポールでは少なくありません。最初は顧客の支払い能力を大きく超える提案をする。そこから徐々に下げていって、顧客が「得をした」と感じる上限金額で着地させるわけです。
金融商品のセールスも、まず「老後に欲しい金額」を聞き出します。すると、顧客はたいてい身の丈を超えた金額を言ってしまいます。その大きな金額から商談を始めるのです。顧客に「毎月無理なく支払える金額」とか「今の予算」などを聞くことはしません。億単位を稼ぐ中華系セールスたちは「希望額」を聞くのです(しっかりしたプロフェッショナルなので、詐欺まがいのことをしているわけではありません)。
翻って、いまだデフレに苦しむ日本ではどうでしょうか。もちろんすべてを一概に同じように論じることはできませんが「マッサージ15分で1000円!」などと、「最安価格」をデカデカとアピールしているサービス業者があまりに多いと思いませんか? 日本はシンガポールと比べて20倍以上の人口がいるので、安くてもたくさんの人に利用してもらえればペイするのでしょうが、最初からあまりにも安い価格設定をするのは芸がないと感じます。それ以上下げることができない価格を打ち出してしまうと、顧客との間で値切り交渉をしつつ「おトク感」を与える「技」は繰り出せないからです。

顧客にごちそうするときは「値の張らない食事」が定番

億単位を稼ぎ出すシンガポールの中華系セールスは、営業の「GNP」も忠実に守っています。「義理(G)」「人情(N)」「プレゼント(P)」の略ですね。日本でも昔から生保レディはGNPセールスをしていますが、こちらの優秀なセールスのGNPは、さらに半端ないと感じます。もともと中華系の人々は、お土産などを家族や友人から、ちょっとした知り合いにまで、大々的に振る舞う文化がありますが、それを顧客向けにも応用して、心をつかんでしまうのです。
時には「お土産があるわよ」と、セールスのほうが顧客を呼び出すこともあります。私も「ハンパー(ふた付きのバスケット)にお土産を包んだから、ぜひ取りに来てくださいね」と言われ、お店に呼び出されたことがありました。品物は、乾物ばかりだったのですが……。私がそのお店のことを忘れそうになっていた頃に、お土産を口実にさり気なく連絡する「技」なのでしょう。なかなかうまいと感じました。
お土産のほか、顧客の心をつかむために食事も振る舞います。この場合、「値の張らない店」を慎重に選んだうえで、ごちそうするのがポイントのようです。なぜなら、「お客様は商談を兼ねた食事の席になると目一杯食べるからね」と、不動産のトップセールスが話していました。タダ飯は誰でもたくさん食べる、ということです。
このように億単位を稼ぎ出す中華系セールスは、ありとあらゆる手を使って顧客との距離を縮め、まずは身近な存在になろうとします。ときには日常生活に役立つ情報なども提供してくれますから、そんな話は顧客にとって付加価値になりますね。ただし、彼らは顧客に何を話そうとも、「論理」ではなく「感情」で揺さぶりをかけてきます。
「病気になったら、医療保険には入れなくなります」
「若いうちに終身で入っておいたほうが、保険料はずっと安いです」
「このサービスを受けるなら今のうちです、もうすぐ値上がりします」
返事を渋る顧客に対しては、「不安」という誰もが持っている感情や、「絶対損したくない、得をしたい」という欲望を揺さぶるのです。
実際、数字を駆使してたんたんと説明するような中華系セールスはいません。五感を働かせながら、目の前の顧客がどういう「感情」でいるかを読み解き、話を展開するタイプばかりです。プレゼンテーションをする場合も長々と説明するようなタイプは皆無。ビジュアルを使ったりして顧客がワクワクする工夫を凝らす人が多いですね。

AIロボットは億単位を稼ぎ出すセールスになれない

最近、シンガポールでは、AIロボットが窓口で迎えてくれる保険会社などが増えています。AIロボットは、顧客の相談に応じられるようにプログラミングされていて、顧客にセールスも行います。
人間のセールスの場合、顧客の名前を忘れてしまったりすることもありますが、AIロボットは「記憶の仕組み」が作り込まれています。顧客情報をログにして完璧に保管することもできますし、優秀なセールスの知識や経験などをロボット自らにコピーできれば、それこそ億単位を稼ぎ出すセールスになるかもしれません。
しかし、大きな金額のモノやサービスをAIロボットに相談をして買いたい、という人はどれだけいるでしょうか。ロボットと一緒に食事をしたり、家族のことを相談したりする、というのも考えにくいでしょう。
私は、今後AI時代が本格的に到来しても、億単位を稼ぎ出すセールスはロボットではない、優秀な人であると思っています。伝統的な営業の「GNP」など、AIロボットにはまねできないテクニックです。人が心を込めてGNPをするからこそ、付加価値として顧客に受け入れられるのです。