受け手の立場になって書くことが肝要です(写真:duiwoy/PIXTA)
「メールでいちばん大切なのは、ビジュアルです」
研修やセミナーでそう言うと、ほとんどの方が「エッ!?」という表情をされます。
実際、質疑応答で寄せられるのは、
「どうしたら文章力をつけることができますか?」
という問いが多いのです。みなさん、自分の文章力がイマイチだからうまくいかないのだと考えているのでしょう。
しかし、上手な文章なら読んでもらえるかと言えば、必ずしもそうではありません。
拙著『仕事が速い人はどんなメールを書いているのか』でも詳しく解説していますが、人が「読みたい」と感じるかどうかは、1行の文字数やスペースといった「視覚的な要素」に大きく影響されるからです。

読み取りの得手不得手は関係ない

私は本を読むのが好きで、1日1冊の読書を日課にしています。だから、活字を読むこと自体はそれほど苦になりません。
ところが、読むことに慣れている私でも、パッと見て文字だらけの本(改行が少なく行間が詰まっている)には抵抗を感じます。そして、実際に読んでみても、時間がかかります。それと同じことがメールにも起こるのです。
では、「読みづらいメール」とは、どのようなものかというと、
・1行の文字数が多い(30文字以上)
・空白の行がない
・改行がない
・文章が5行以上続く
・箇条書きにすべき事柄が文章で書かれている
という特徴があります。
開いた瞬間、文字がギュッと詰まっているようなメールは、直感的に「読みにくい」と感じます。
「読みにくい」ということは、メールを開いたときの画面に反発を感じる(読む気が失せる)ということ。こうなると、よほど特別なメールでなければ、後まわしにされてしまいます。
「そうはいっても、仕事上のやりとりなら、多少読みづらくても最後まで読んでもらえるのでは?」
そう思われるかもしれません。
確かに、どうしても読まなければならないメールなら、受け手は我慢して目を通すでしょう。ただ、この時点で、受け手の送り手に対する印象は最悪になります。

印象の悪化だけでなく、仕事に支障が出る可能性も

いや、それだけならまだいいでしょう。
メールの読みにくさは、理解度にも影響を及ぼすのです。
読みにくいメールは、読み間違いを誘発します。その結果、正しく伝わらなかったり、こちらが望む処理をしてもらえなかったりします。そうなると、もう一度働きかけをしなければならないので、二度手間になってしまう……。
これでは仕事は進みません。
読みにくいメールを送っていると、相手の中で優先順位を下げられてしまいます。
優先順位が下がれば、結果的に仕事が滞ってしまう。
仕事が速い人はこの点を危惧しているので、メールの見た目(レイアウト)に人一倍気を遣うのです。とくに初対面の人にメールを書くときには、そのメールがあなたの印象を決めることになるので要注意です。
メールに限ったことではありませんが、文章を「読める」「読みたい」と感じるかどうかは、過去にそれと同種の文章が読めたかどうかによります。
例えば、書店で本を探していて、ある作家の作品が目にとまったとしましょう。
そのとき、「この人の文章、前に読んだけど……すごく癖があって読みづらかったなあ」という記憶が残っていれば、手に取らないのではないでしょうか。
ビジネスメールの場合も同様です。
メールの処理は業務の一部ですから、抵抗がある文章でも読まなくてはなりません。しかし、「差出人」の名前から「この人のメールは読みにくかった」「よく意味がわからなかった」という記憶がよみがえると、途端に読む気が薄れてしまう……。

メールは「見やすく」あるべき

それが、返信の遅れを招くことになるのです。メールの「見た目」もまた、仕事のスピードにダイレクトに影響を与えると言えるでしょう。
どれだけいい文章が書けるようになっても、相手に読んでもらえなければどうしようもありません。また、読んでもらえなければ、「返信」ももらえません。
だからこそ、ビジュアルを工夫することが大切なのです。
では、メールの「ビジュアル」をどう変えればいいのか。
具体的に説明していきましょう。
ブロック化・1行空きで本文を美しく整える
メールは「レイアウトを整える」ことで読みやすくなります。
レイアウトとは、メールの構成要素の配置です。各要素に関する詳細は後述しますが、まずは何をどう配置すれば読みやすくなるのか、ご説明しましょう。
「読みやすいメール」はパッと見た印象として、文字と空き(スペース)がバランスよく配置されています。
空きは、改行、1行空き、箇条書きによってつくり出されています。
文章を読みやすくするコツは、20~30文字程度で改行すること。そして、文章のまとまりごとに「ブロック(文章の塊)」をつくることです。
この場合のブロックは、段落のようなものだと考えてください。
ブロックは5行以内でまとめられると理想的。もし5行に収まらなければ、できるだけ短くしてみてください。
ブロックとブロックの間には、1行分の空きを入れましょう。
ここで注意したいのは、一文ごとに空きを入れないこと。
よく、ブログなどで一文ごとに空きが入っているケースがありますが、メールとブログは違います。一文ごとに空いていると、文単体では読みやすい反面、文と文の関連がつかみにくく、間延びした印象を与えます。
そもそも、1行空きを入れてブロックをつくるのは、なぜでしょうか。
もちろん、読みやすくすることが最大の理由ですが、もうひとつの理由は、ブロックをつくると本題がつかみやすくなり、読み飛ばしてもいい箇所の判断がつきやすくなるからです。要するに、重要な箇所が視覚的にわかるようになるのです。

見やすければ要点がすぐ探せる

また、メールは、じっくり丁寧に読むというより速読することが多いのではないでしょうか。
速読ではキーワードを拾いながら斜め読みをします。このとき、ブロックが分かれていれば、書き手の意図、つまりしっかり読んでほしい箇所と、斜め読みで構わない箇所を伝えることができます。これなら、読む側も拾い読みが楽になるでしょう。
ブロックの分割は、送り手と受け手、両方にとって便利なのです。
なお、情報をブロックごとにまとめるときには、コツがあります。
それは「関連する情報を近くに置く」ということ。
例えばセミナー参加者への通知であれば、日時、会場の住所などと合わせて電話番号を載せるでしょう。
このとき、当日の緊急連絡先(連絡方法)も近くに記しておきます。
そうすれば、当日遅刻しそうになった参加者がこのメールを見返しても、すぐに連絡先を探すことができるのではないでしょうか。
これが、最後のブロックに、「なお、緊急の際のご連絡は……」などと書いてあると、焦っている状況では、見逃したり、見つけづらかったりしてイライラするものです。
相手からの素早いレスポンスを引き出すメールとそうでないメールの差は、こうした細かい部分にこそ現れるのです。
「ビジュアル」という観点では、「漢字」の使い方にも注意が必要です。
手書きならひらがなで書くような表現を、ビジネスメールになると、
「有難う御座います」
「宜しくお願い致します」
「御対応頂けますでしょうか」
と漢字を多用する人がいますが、あまり効果的だとは言えません。
漢字が多用されていると読みづらくなり、見た瞬間にブロック全体が”黒っぽく”なります。人によっては、それだけで読む気が失せてしまうでしょう。
過剰に漢字を使う必要はありません。ひらがなと漢字をバランスよく使い、見た目の読みやすさを意識してください。

箇条書きで相手の理解度をアップさせる
メールの本文中に日時や場所、住所や連絡先といった情報が出てくる場合は、それらを項目ごとに箇条書きにします。各項目のアタマに「・」「■」「●」などの記号を使うと、さらに目にとまりやすくなり、見落としを防ぐことができます。
箇条書きにする最大の理由は、スッキリ見せられるから。
重要な点がコンパクトにまとまるので、どこに注意して読めばいいのか、よくわかります。また、要点がつかみやすくなるので、誤解も生じません。

目にとまりやすい=要点が伝わりやすい

文章にすると長くなる記述も、箇条書きにすれば情報が絞り込まれるため、理解するまでの時間が短くなります。時間をかけずに理解できるというメリットは、すぐに返事をもらえることにもつながるのです。
また、箇条書きには、入力が少なくて済むというメリットもあります。これはメールの作成スピードを上げることにもつながるでしょう。
ちなみに、「アイトラッカー」という、人間の視線の動きを追跡できる装置を使うと、箇条書きのない読みづらいメールでは、視線が上から下まで移動して、再び上に戻ったり、同じ部分を何度も注視したりと視線が定まりません。
箇条書きでないと、どこが重要な点なのかがわからず、全体をじっくり読みながら要点を探ることになるからです。
それに対し、箇条書きで書かれた読みやすいメールでは、箇条書きの部分に視線が固定されることがわかります。要点をつかみ、集中して理解していることが読み取れるのです。箇条書きは、それだけメールを読む側の負担が少ないということでしょう。
箇条書きにするのは、情報を相手の記憶に残りやすくするためでもあります。
箇条書きは、短く簡潔に要点が整理されているので、重要な部分だけを記憶してもらえます。さらに、箇条書きなら、要点を特定しやすいので早く確認できるという利点もあります。

説明が長くなりがちな要項を短く伝える

もっとも、このあたりは基本的なスキルなので、「そんなの、普通にやってるよ」という人も多いかもしれません。
しかし、仕事の速い人は、箇条書きを駆使する中で、何を箇条書きにしたら効果的なのかという点も考えています。
・交渉時に相手に提示する条件(できること/できないこと)
・(クレームをつけられたときに)自社が対応可能な事柄
・社内調整が必要な案件で他部署に協力してほしいこと

といった、文章で伝えると情報が増えてかえってわかりにくくなることや、誤解を招きそうなことをあえて箇条書きにしています。
こうすることで、伝えたい内容を受け手に負担をかけずに伝え、トラブルを回避しているのでしょう。
相手に意図しない解釈をされるときは、実は書き方に問題があるということが少なからずあります。その点、解釈のズレを防ぐのに、箇条書きは大いに役に立つのです。
このように、見た目に配慮して情報を整理すれば、相手の理解度も自然と高くなるでしょう。とにかく、メールは見た目が重要なのです。