ボーナスの一部を住宅ローンの繰り上げ返済に回そう、そう考えている家庭も少なくないでしょう。いっぽうでマイナス金利政策以降、住宅ローン金利は史上最低金利レベル。低金利の恩恵を受け、利息の支払いはかなり抑えられています。

ボーナスで住宅ローンの繰り上げ返済すべき? タイミングは今じゃない?

2016年に日銀がマイナス金利政策を導入して以降、住宅ローン金利は、史上最低レベルで推移しています。それ以降に住宅ローンを借りた人は、マイナス金利の恩恵を受けています。また、借り換えを実行して、金利負担を減らした人も少なくないでしょう。

それでも、多くの借金を抱えて30年、35年と返済が続くわけですから、ボーナスなどまとまった収入があったときには、繰り上げ返済をして、少しでも早く完済したい、と考えることでしょう。

しかし、低金利の住宅ローンであれば、利息負担そのものがかなり抑えられており、元利均等返済の場合、毎月の返済額のうち利息に回される分が減り、元金の返済分が増えているわけです。

こうした状況を考えると、何がなんでも、繰り上げ返済を優先する、というのは拙速です。順番に説明していきましょう。

早期の繰り上げ返済はもちろんメリットあり

繰り上げ返済は、イメージ図(期間短縮型)にあるように、繰り上げた資金は、元金部分に充当されます。そのため、ローン残高を一気に減らすことができます。元金部分に充当された部分の利息相当分は支払わなくてよくなり、返済回数も短縮することができます。

期間短縮型の繰り上げ返済のほか、返済額軽減型(繰り上げ返済資金を元金に充当するのは同じだが、返済期間は短縮させず、毎月の返済額を減額させる方法)がありますが、利息軽減効果は、期間短縮型のほうが高く、また、早期に返済を終えられるので、多くの場合、期間短縮型の繰り上げ返済を選択しています。


元利均等返済の場合、毎月の返済額は返済終了まで毎回同額ですが、毎回、元金と利息の額が変わり、返済当初ほど利息分が多く、残高が減るにしたがって、利息が減っていく形になっています。つまり、繰り上げ返済をするなら、返済早期のほうが、利息の軽減効果が高く、より早く完済できる、というわけです。

ただし低金利ローンではそもそも利息の支払いが抑えられている

今度は住宅ローン金利の低下で、どれだけ恩恵を受けているか、試算してみましょう。

▼2000万円を35年返済、元利均等、毎月返済のみで借り入れた場合(1)2019年12月借り入れ
金利:1.21%
毎月返済額:5万8435円
うち、元金分:3万8269円(返済1回目)
うち、利息分:2万0166円(返済1回目)

(2)2014年12月借り入れ
金利:1.58%
毎月返済額:6万2023円
うち、元金分:3万5690円(返済1回目)
うち、利息分:2万6333円(返済1回目)

5年前は現在と比べて0.37ポイント、金利が高かったのです(フラット35、返済期間21年以上35年以下、融資額9割以下の場合)。同じ2000万円でも毎月返済額は約3580円高く、元金に回される分は現在より少なく、利息分が約6170円多かったことになります。低金利によって利息負担がそもそも減っている、というのが今の状況なのです。

この5年間、フラット35でいえば、2016年8月の0.90%が最低金利であり、それから比べると上昇してはいますが、それでもひと昔前の水準を考えれば、史上最低金利レベルといえるでしょう。

繰り上げ返済の効果は「今すぐ」「1年後」「5年後」でさほど変わらない

住宅ローン金利の低下で利息負担が減っているわけですが、「だから繰り上げ返済をしないほうがいい」ということを言いたいわけではありません。住宅ローンの完済が定年退職後も続くことがわかっていれば、できるだけ早く完済したい、というのも間違いではないです。

しかし、「急いで」「今すぐにでも」繰り上げ返済をすべきか、となると「そんなに慌てなくてもいい」かもしれないということです。

もう少し具体的に見ていきましょう。今度は、2000万円を借り入れ、いつ繰り上げ返済するかで、どのぐらい効果があるのか、試算してみます。

2018年12月に2000万円を35年返済、元利均等、毎月返済のみで借り入れ、繰り上げ返済の時期を変えた場合、繰り上げ返済の効果は、以下のようになります。

▼2018年12月に借り入れ借入額:2000万円
借入金利:1.41%
毎月返済額:6万0358円
総返済額:約2535万円

▼ケース1:2019年12月に100万円を繰り上げ返済する総返済額:約2476万円
利息軽減分:約59万円
返済短縮回数:26回

▼ケース2:1年後の2020年12月に100万円を繰り上げ返済する総返済額:約2478万円
利息軽減分:約57万円
返済短縮回数:25回

▼ケース3:5年後の2024年12月に100万円を繰り上げ返済する総返済額:約2487万円
利息軽減分:約48万円
返済短縮回数:24回

返済開始から1年たち、もしも、今ボーナスを活用して、12月に100万円を繰り上げ返済すると、利息軽減は約59万円で、返済期間は26回、2年2カ月短縮できます。現在、一般的な定期預金に100万円を1年預けても、利息はわずか100円(税引き前)。それであれば、100万円を有効に使ったほうが得策、といえます。

しかし、今は繰り上げ返済をせず、1年後の2020年12月に繰り上げ返済をすることにしたら、どうでしょうか。利息軽減効果は約57万円でわずかながら少なくなりますが、返済短縮期間は25回、2年1カ月の短縮で、今すぐ繰り上げ返済したときの効果とそれほどの違いはありません。

さらに5年後の2024年12月に繰り上げ返済した場合は、どうでしょうか。利息軽減は約48万円、返済短縮期間は24回、2年となります。

確かに、早い時期に繰り上げ返済をしたほうが利息軽減効果は高くなりますが、返済短縮期間には、ほぼ違いはありません。そこが、何がなんでも急いで繰り上げ返済をするのがいいわけではない、という一番のポイントなのです。

昔のセオリーは通じない。繰り上げ返済のタイミングはライフプランと併せてチェック

少し前までなら、繰り上げ返済をして、定年退職前の完済を目指す、というのがセオリーで、子どもの教育資金の山を乗り越え、住宅ローンを早期に完済させ、残り、定年退職までが貯蓄のラストチャンス、という考え方が主流でした。そういうライフプランが一般的だったのです。

しかし、現在は、定年退職後も、子どもの教育費がかかり、住宅ローンの返済も続く、というケースが少なからずあります。人生の大きな出費が重なる世帯もあるのです。

そうしたときに、住宅ローンは早期に繰り上げ返済するのが、トク。というセオリーに縛られていると、いざというときに自由に使えるお金がない、という事態になる可能性もあるのです。

今、繰り上げ返済すべきかどうかは、子どもの教育費など、必ず出ていくお金の用意ができているか、ほかに大きな出費の予定はないのか、その手当てはできているのかなど、家計と貯蓄プランを確認してから判断するのが、いまどきのボーナスの賢い使い方といえるでしょう。

試算では、100万円を繰り上げ返済に回すとしていますが、金融機関によっては少額から繰り上げ返済ができるところもあります。10万円、20万円とボーナスの一部を利用して、こまめに返済していくという考え方もあります。

それでも、今優先すべきは、近いうちにやってくる子どもの教育費など、大きな出費に備えることです。その準備ができていれば、積極的に繰り上げ返済をしていけばいいでしょう。
(文:伊藤 加奈子(マネーガイド))