赤羽は「庶民の街」として暮らしやすい環境が魅力
「首都圏の住んでみたい街アンケート」(マンション分譲大手7社で構成されるメジャーセブン)の2019年版の結果が発表された。1位「恵比寿」と2位「品川」は昨年と変わらず、3位に「目黒」がランクインしたが、これらの街の駅近にマンションを買おうとしたら、相当な予算がないと難しいだろう。だが、JRの主要路線の沿線には、交通利便性が高いのに、手頃なマンション価格で“コスパ最強”のエリアがある。住宅ジャーナリストの榊淳司氏が勧めるのは、ずばり「赤羽」だ。
 * * *
 住宅購入の相談をお伺いしていると、非常に漠然とした質問を受けることが多い。
「マンションはどこに買うのがいいのでしょう?」
 こういうのがいちばん困る。答えようがないからだ。まず、その方ご自身や家族にとってどんな場所に、どんなカタチの住宅が必要なのか。予算はおいくらなのか。ご自身や家族の未来をどのように想定されているのか……。
 住まいを選ぶためにはそういうことをひとつひとつはっきりさせて、条件を絞っていかなければならない。どんな人にも、どんな家族にも「この街のこのマンションはいいですよ」などという物件はない。
 だから相談をいただくとまず、「なぜ住宅をご購入なさるのですか?」という、大まかなニーズからお伺いする。なるべくプライバシーには立ち入らぬよう、ご家族のことや未来設計図も尋ねてみる。
 私はマンションの資産価値をアレコレと評価することを自分の仕事の柱にしている。だから私がよく聞かれる質問には「資産価値が落ちにくい住まい」、あるいは「5年後か10年後にできるだけ高く売れるマンション」はどこにあるのか──といった相談が多い。
 はじめから資産価値が落ちにくいと分かっている住まいは、都心でも人気のある一等地。港区の表参道や千代田区の番町、渋谷区の代官山などだ。しかし、そんな場所では普通の所得の方は買えない。
 5年後か10年後にできるだけ高く売りたいと思っても答えは同じ。山手線の内側か、せいぜいそこから5駅以内だ。ただ、この先中古マンション市場は全般的に下落が予想されるので、間違っても値上がりを期待してはいけない。
 では、普通の所得の方がこれからマンションを購入するには、どのあたりがいいのか。
 街並みや環境には人それぞれの好みがある。郊外の自然豊かなエリアでの大規模開発を好む方もいれば、多少殺伐としていても埋立地の湾岸に住みたがる人もいる。
 街並みや環境を選択の優先基準とされる場合は、どうぞそうなさっていただきたい。ただし、これからの時代は都心から離れれば離れるほど資産価値を維持しにくくなる。あるいは湾岸埋立地のように、世の中の空気が変われば敬遠される可能性の高い場所もある。
 そこで、普通の所得者が購入できる範囲で、資産価値が落ちにくい物件を探すにはどうすればいいのか?
 私の基準は、まずJR主要路線の沿線で早くから市街地を形成していたエリアである。そういうところは街として成熟しつつも、日々新陳代謝が行われている。交通利便性が高ければ、街として衰弱する可能性も低い。
 そのような街の中から、今回は「赤羽」をお勧めしてみたい。その理由は、便利なのに価格がそれほど高くない。つまりコストパフォーマンスに優れているのだ。
 まずJR「赤羽」駅には山手線の西側を走る埼京線と、東側の京浜東北線がともに乗り入れている。山手線のどちら側の沿線にアクセスするにも便利だ。次に、駅前の商業エリアが充実している。日常の買い物はもちろん、食事などでも幅広い選択肢がある。街としての華やかさもそれなりだ。
 ただし街としてのステイタス感はイマイチで、「庶民の街」というイメージは濃厚だ。しかし、肩肘張らずに住むなら、かなり暮らしやすい環境を提供してくれている。
 しかも、住宅の価格がリーズナブルだ。東急リバブルが提供している「駅別相場価格データ」(アットホーム調べ)によると、赤羽エリアの新築マンションの相場観は3100万円(※すべての間取りを対象に算出した相場価格)となっている。
 これに対して、たとえば新宿からのアクセス分数が同水準の吉祥寺は4180万円。ただ、吉祥寺は赤羽よりも「東京」駅へは約10分遠い。
 また、山手線の南側にあって、赤羽同様に山手線の東西へ優れたアクセスが得られる蒲田だと新築マンションの相場観が3470万円。蒲田は赤羽に劣らぬほど駅周辺の商業施設が充実している。ただし、新宿へのアクセス分数は赤羽より20分前後遠い。もっとも、蒲田は川崎や横浜など、神奈川方面へは好アクセスを誇る。
 確かに蒲田は神奈川方面へのアクセスが良いが、赤羽も埼玉方面への玄関口の役割を担っている。上越や東北への新幹線を利用するには、「大宮」が使える。
 さらに、中古マンションや新築、中古の戸建てでも赤羽の価格優位性は際立っている。こういう街は、不動産価格が下落期に入ってもある程度底が堅い。一定レベルまで下落すると、そこで止まる傾向があるのだ。
 ところが、これよりも郊外や湾岸エリアは下落期に入ると底が割れるほど資産価値が下落するケースがある。
 例えば千葉県のある埋立地エリアは、東日本大震災の直後に駅付近が液状化し、その画像がネット上に数多く流れた。その結果、かつて街区内での住み替えが盛んに行われていたほどの人気の街の住戸が、3年ほどの間に3割から4割も下落してしまった。
 遠隔郊外にはそういう怖さがあるのだ。しかし路線が開通して100年以上も経過している街では、そこまで急激な下落は起こりにくいと考えるべきだろう。
 赤羽や吉祥寺や蒲田は、そういった街の代表格といえる。中でも最もコストパフォーマンスに優れているのが「赤羽」ではないかと私は考えている。