いわゆる「自己主張しないいい人」がなぜダメかというと、他人との摩擦を恐れて自己主張しないからです。摩擦をおこさない「いい人」は、様々な場面で、ただの傍観者であり、追随者でしかないことに気づくはずです。

高リターンを得るためには「イヤなヤツ」になる必要も

お金の運用で「どの市場の、どのセクターに自分のお金を投じれば、最も高いリターンがあるのか」を考えるように、人に対しても「成功するには、誰に対してどのような言葉を使えば最も高いリターンがあるのか」を取捨選択するのは、至極当然でしょう。

そしてそれは、自分の人生をよりよくしていくための戦略です。

ただし、その戦略を実行しようとすれば、「いい人」ではなく、パッと見「イヤなヤツ」となる場面も増えるものです。

実際、「いい人」と「仕事で成果を出す人」とは相反することが多いものです。

著名な経営者の評判を調べればわかるとおり、社内で怒鳴り散らしているとか、わがままばかり言うとか、周囲を振り回している人がほとんどです。

年月が経った今は穏やかな人であっても、若かりし頃、つまり発展途上のときは台風のようにハタ迷惑だった人は少なくありません。

そもそも彼らは、万人に好かれようとは微塵も思っておらず、自分にとってメリットがありそうな人に好かれればいいと本能的に悟っています。

だから、彼らはターゲット人材には徹底的に言葉を選ぶと同時に、関係ない人にはあまりに素っ気ない。炎上や誹謗中傷もまったく気にせず、天上天下唯我独尊といった感じです。

ただの「いい人」はなぜダメ? 「できる人」との違い

こうした彼らの態度・言動を見た凡人には、「金持ちはいけ好かない」「イヤなヤツが多い」と映る。「そうまでして成功したくない」という人もいるでしょう。

もちろん、それはそれで本人の選択です。しかし、「いい人でありたい」「誰からも好かれたい」という人は、突き抜けた成果を出すことはあきらめる必要があるのではと思っています。

そもそも、いわゆる「ただのいい人」がなぜダメかというと、他人との摩擦を恐れて自己主張しないからです。

独自の意見・主張・提案を示せば、それがイノベーティブなものであればあるほど、周囲の反発が起こる。「理解できない」「頭がおかしい」「どうせすぐダメになるさ」と非難される。

それでもなお、その考えを貫こうとすれば、周囲からは「なんだあいつ」「生意気なヤツだ」となる。業界や同業他社からも圧力を受ける。場合によっては訴訟や政府とのケンカにも発展する。

しかし、摩擦を恐れては何事かを為すことはできません。あなたの周りを見ても感じないでしょうか。摩擦をおこさない「いい人」は、様々な場面で、ただの傍観者であり、追随者でしかないことに気づくはずです。

「できる人」は、人と意見がぶつかること、周囲の反対に遭うことを恐れず(最小限に抑えつつ)、あるいは回避しながら自分の思い通りにコトを運ぼうとするものです。たとえば以下のようなことです。

顧客を煽る

恋愛では「好き好き」と言う側よりも、本音はともかく「いつ別れてもいい」「そんなに興味はないね」とういう素振りができる側が、2人の関係の主導権を握るものです。

つまり、駆け引きができる人のほうがより相手をゲットしやすくなるということ。

そしてこれは、ビジネスでも必須のスキルとなります。

たとえば、顧客から「この商品ありますか?」と聞かれたときも、「あの商品は人気なので確か在庫切れで……、ちょっと待ってください、倉庫を確認してきます」「お客さん、ラッキーです! 1つだけ在庫がありますよ!」そうやって顧客の狩猟本能を刺激します。

不動産業界でも似たようなトークが展開されることがあります。たとえばオトリ物件(その物件は売れてしまっていても、顧客の問い合わせを増やすための物件)は本来は違法なのですが、「すみませんお客さん、あの物件、タッチの差で売れてしまいました!」とやることがあります。

顧客は残念な気持ちになる一方で、次は逃すまいと、やはり狩猟本能を刺激される。そうすると、次に紹介された物件がそれほど良くないものでも、「また逃すかもしれない」という恐怖心が働き、飛びつくというわけです。

稼ぐ人は「売ってください」と言わせる

「売れないと会社に帰れないんです」「私を信じて買ってください」などと感情に訴え懇願する人がいますが、そんな気合と根性だけで商品が売れるほど世の中は甘くないでしょう。

稼ぐ人は、自分から「買ってください」とは言わず、顧客の方から「売ってください」と言わせるようなセールスを組み立てます。

これは編集プロダクションの人に聞いた話ですが、編プロの担当者が、出版社のところに企画を売り込みに行ったときのこと。出版社はいつも売れるネタを探している。だから売れそうなテーマや企画があれば、やってみたくなるものだ。

もちろん編プロの彼も、その期待に応えられるよう、新たな企画ネタを持ち込む。

しかし編プロの彼は、絶対に自分のほうから「この企画でお願いできませんか」などと売り込みをしない。それよりも、どうしたら相手の方から「お願いします」と言わせるかにフォーカスしているという。

出版社「何かおもしろい企画ないですか」
編プロ「そうですねえ。たとえばこういうテーマもありかもしれませんね」

と、今思いついたかのごとく、さりげなさを装って答える。もちろんこれは彼が考えに考え抜いた企画なのだが、そんな態度は微塵も見せない。このとき、売れそうな企画は、優秀な編集者なら必ず食いついてくる。

出版社「なるほど。それ、こういう切り口で攻めれば面白くなるんじゃないですか?」
編プロ「ああ、確かに。それはいいかもしれませんね」
出版社「それ行きましょうよ。今月中に企画書出せますか?」

そこで彼は、本音では「ぜひ!」という気持ちなのだが、あえてちょっと引いてみせる。

編プロ「いやちょっと今、たて込んでいまして……」
出版社「そこをなんとか頼みますよ」
編プロ「わかりました。なんとかやってみます」

とやって、お願いする立場からお願いされる立場へと持っていくという。

こちらからお願いすれば、相手が出す条件を飲まざるを得ない。それはもちろん自分に不利になりやすい。しかしお願いされる立場なら、こちらに有利な条件でコトを運ぶことができるというわけです。

ウソもハッタリも効かせる

自分がちっぽけな時期にチャンスをモノにする、競争相手がたくさんいる中で仕事を得るには、時にはウソをつくこともあります。

しかし、そうした局面でのウソは、本人に相応の覚悟と度量が要求されます。なぜなら、それがウソとバレたら信用失墜や債務不履行になることもあるからです。

逆に、ウソも実現させれば詐欺ではなくなり、「やはりウワサどおり、すごいですね」となる。

だから知人のIT会社の社長は、どんなムリなシステム案件でも、「もちろんできます。お任せください」といって仕事を取ってくるそうです。

もしできなければ代金はもらわなくていい。しかし、できれば大きな実績となる。そうやって彼は、わずか1年で社員が100名の規模まで成長させました。

ハッタリも、底辺の人間がのし上がる方法のひとつです。

たとえば勝算のあるビジネスなどでカネを借りるときです。

たとえば100万円必要なとき、最初から「100万円貸して」では、50万円とか30万円に減ってしまうから、いきなり「500万円貸してくれないか」と吹っかける。すると、たいていは「そんなのムリ」となる。

そこで「では200万円なら?」「それもダメ」「では100万円だけでも」「わかったよ、ちゃんと借用書書けよ」となる(可能性が高まる)。人は同じ要求をそう何度も断れないものだからです。

これは金額交渉だけでなく、仕事でも同じです。たとえば「あの報告書、いつまでに出せる?」と上司に言われたら、「来月中には」と余裕を持たせて答える。

すると「馬鹿言うなよ」となるので、「では急いで今月末までには提出します」と、やはり余裕を持ったスケジュールを確保できる。

もちろん「できない」烙印を押されないよう、通常の業務状況や仕事の種類は選ぶ必要がありますが、ハッタリをかますことで自分に有利な状況を作り出すことができます。

部下への指示でも、「1人最低30人集めろ」というと、「そんなのムリ!」という反応が返ってきても、それでもなんとか頑張って10人位は集めてくるものです。

「今月のノルマは1人1000万円!」というと「無理っす!」と言いながら500万円くらいは頑張るはず。

少なくとも「1人最低10人集めろ」とか「今月のノルマは1人200万だ」というより、達成幅は大きくなるでしょう。

期待ギャップをうまく使う

もしあなたが上司の立場で、「今度のボーナスは期待しておいてくれ」と煽っていながら、実際の金額が10万円だと、「何が期待しておいてくれだ!」と部下のブーイングとなります。

しかし、「今度のボーナスはすまんが雀の涙で、飲み代程度にしかならないかもしれない」と期待を下げておけば、10万円のボーナスを見たとたんに「おっ! やった! 思ったより多いじゃん!」となる。

つまり同じ金額を使って感激度を上げるには、期待値からの上振れを演出することにあります。これは、お金だけに限らず、たとえば相手から「悪い知らせです」と言われたら、何事かと身構えるでしょう。

上司から「○○クン、今日は悪い知らせがある」と言われたら、リストラか何かと恐怖が身体を走るかもしれません。

しかし直後、「社員旅行の行き先が、ハワイから熱海に変更になったんだよ」と告げられれば、「なんだ、ビビったよ」と安堵感となり、旅行先のグレードダウンには文句を言うことはないでしょう。

あなたが部下で、上司に「部長、悪いお知らせです」と言うと、上司は「自分に火の粉が降りかかるような何か重大なヘマをやらかしたのか」と緊張します。

しかしその内容が、「取引先から1割の値引きを要求されたのですが……」であれば、上司は「なんだ、そんなことか」とホッとし、「わかった、その条件で進めてくれ」となる(かもしれない)。

これは子供でも使うテクニックです。「お母さん、ごめん、テストの点数が最悪だったんだ……」母親は相当悪いんじゃないかと覚悟しつつ、「まあ、何点だったのよ」と聞く。そこで「98点だったんだ」とやれば、「なによ、すごいじゃない!」となる。

「うん、でもね、それは国語で、算数は60点だったんだ」とやれば、「そう。まあいいじゃない、次に頑張れば」と母親からの叱責をかわそうとするものです。

しかし、凡人はこの逆をやります。悪いことを「いや、大したことではないんですが……」と悪くないようにごまかそうとするから、「ばかやろう、きちんと交渉してこい!」となるのです。

悪いことを、むしろ良いことのように表現し、叱責などから身を守るテクニックというわけです。

これらはわかりやすいように表現したサンプルに過ぎませんが、相手が感情を持つ人間である以上、自分を有利にしていくには「話し方」がカギを握っています。

そう考えると、会話を運ぶ戦略性の有無が、結果に影響を与えることは推して知るべしです。
(文:午堂 登紀雄(マネーガイド))