モノの値段が上がり、社会保障費も上昇するなか、家計管理にどのような変化が起きているのでしょうか。総務省が発表した『2018年 家計調査 家計収支編』から年代別に見ていきましょう。

確かに支出は増えたが、収入も増加している

平均貯蓄額、平均収入といったお金に関するデータは、各省庁が発表する統計データのほかに、金融機関や調査会社などによる独自調査データが多くあります。

こうしたデータを見ると、「現実離れしている」という声が挙がります。

確かに平均値はあくまでも平均で、自分の生活実態にそぐわない面もあります。それでも、統計データを自分事としてとらえることが、マネー管理の面では役に立つことも多いのです。

この記事で紹介する、総務省の『家計調査』は毎月の速報のほか、4半期、年間でデータが公表されています。その中に、年収別、年代別、都市別など細分化してまとめられているデータがあります。

より自分に近いプロフィールではどうなのか、といった観点で数字を見るといいかもしれません。

まず、2人以上世帯のうち、勤労者世帯の家計収支がどうなっているのか、見ていきましょう。


昨年の同調査と比較すると、収入は約2万5000円の増加に対し、消費支出は約2300円の増加に抑えられています。税金や社会保険などの非消費支出が約4200円増加しているため、支出全体では約6400円の増加となっています。

家計収支の黒字額は、昨年より1万8500円程度増えており、収入増の分で、家計管理の面では節約に心を砕く必要がなかったかもしれません。

月額平均にならした貯蓄純増額も、昨年から約2万4000円増えており、可処分所得に対する貯蓄割合を示す平均貯蓄率は、22.3%から26.6%に上昇しました。

支出の内訳を見てみても、消費支出に対する各項目の支出割合は、さほど変化していません。食費を過度に削る、趣味や娯楽といった生活の楽しみを削る、そんなデフレ時代の節約からは脱出しているように思います。

ここ最近は企業業績が上向きで、夏冬のボーナスが増加した人も多いでしょう。このデータは年収を月額平均にしていますので、ボーナスの増加が、家計に少しの余裕をもたらしたのかもしれません。

年代別では20代、30代の貯蓄率が高い

では、年代別では、どうなっているか見ていきましょう。まずは、20代、30代。


収入は、20代で昨年から約2万円の減少。30代では約8万7000円の増加。これを反映してか、消費支出は20代では約1万5000円減少しているのに対し、30代は2万1000円の増加という結果になっています。

しかしながら、20代の貯蓄純増額は昨年から約1万5000円増えており、貯蓄率も38.8%と全世代を通して最も高いのは特筆すべきでしょう。

次いで30代の貯蓄率は32.3%と、収入が40代以降と比べて低いなかにあっても、貯蓄をしっかりとしているというのは、心強いものです。

この貯蓄率は、20代、30代とも昨年から大幅に上昇しており、堅実な世代と言うことができるかもしれません。

実際、ライフプランのなかで、結婚して子どもが生まれる、または高校に上がるまでの期間は、お金を貯められる時期でもあります。この期間に貯蓄のベースを作っておくことが、20年後、30年後に生きてきます。

子どもの教育費負担が重くなる40代、50代

40代では、収入が昨年から約5100円の増加にとどまり、50代では約4万3000円の増加。

とはいえ、子育てにお金がかかり始める年代では、なかなか消費を縮小することも難しいのか、消費支出については、40代では、約4300円の増加、50代では約6000円の削減となっています。


この年代では、子どもにかかるお金は教育費だけではなく、食費、被服費、通信費など、生活全般で大人と同じかそれ以上のお金がかかってきます。

可処分所得は20代、30代に比べると多いように見えても、実際に自由に使えるお金は少なく、貯蓄に回す余裕もなくなってきます。

50代での貯蓄率は26.9%と現役世代のなかでは、最も低いことになりますが、昨年からは大幅にアップしています。

50代は貯蓄をしながら、教育費などまとまったお金が出ていく時期でもあり、老後に向けた資金作りもしなければなりません。

このことを念頭に置けば、20代、30代のうちから、将来に向けての貯蓄をしておくことが大事であるとわかるでしょう。

定年後も働くことで、家計に余裕ができる60代、70代

60歳で定年。住宅ローンを完済し、子どもは独立。定年後は悠々自適に暮らす。そんな時代は、遠い昔に過ぎ去りました。

60歳以降も、再雇用や再就職などで働けるうちは働き、年金で不足する分を貯蓄から取り崩すのではなく、働いて収入を得ることで、その後の本当の老後生活を安心して迎えることができるのです。

60代以降も40万円も収入がある、というこの結果は、少々現場感からすると、驚きの数字ですが、60代の平均年齢は63.8歳なので、65歳までは働く、ということが定着しつつあるのでしょう。

働いて収入を得る、少なくとも公的年金の受給開始年齢まで働くという考え方自体は、これから重要なテーマになるでしょう。


特筆すべきなのは、消費支出のなかで、教育費がガクッと減るのは当然として、これだけ収入があるからなのか、食費などは子どもが独立する前と後で、それほど変化がないことです。

働いて収入を得ることで、現役時代の生活レベルを維持するのもいいことですが、生活のダウンサイジングを心がけ、この先のリタイア生活に向けた準備をしておきたいものです。

平均は平均だからではなく、自分の消費傾向をチェックする

家計は世帯それぞれに事情があり、ほかの世帯と比べることに、あまり意味はありません。

しかし、こうしたデータから消費支出の割合をチェックし、我が家の家計と比較し、使いすぎている費目はないか、それは削ることができるのか、今は無理でも子どもが成長したら減らせるのか、または、これからどのくらい増えるのか。そうした家計チェックに使うことができます。

とかく、家計は近視眼的に、毎月のやりくりに目が行きがちです。また月によっても変動があります。年間でかかったお金を月平均にならし、昨年と変わったところはないか、来年はどうなるか、そうした結果の確認と予測を立てることも大事なことです。

数字の見方はいろいろありますが、「こんなに収入ないから」、「平均の数字は高すぎる」というばかりではなく、うまく活用して、健全な家計管理に役立たせて欲しいと思います。

※データ出典/総務省統計局「家計調査 家計収支編 2018年」より、二人以上世帯のうち勤労者世帯のデータより抜粋して、筆者作成
(文:伊藤 加奈子(マネーガイド))