ギリシャと日本、娯楽に対する価値観の違いとは(写真:pixelfit/iStock)
年の瀬も近づき、忘年会のシーズンも近づいて来ましたね。飲み会があると、その後にどこかへ遊びに行くというのが、日本では定番ですよね。日本に初めて行ったとき、たくさんの娯楽があることにとてもビックリしました。ダーツやビリヤード、マンガ喫茶などなど。考えるだけで何をしようか迷ってしまいます。
日本にあるたくさんの娯楽の中で、とても印象に残っているのがカラオケです。私は、『アグレッシブ烈子』のキャラクター・烈子がとても好きで、ネットフリックスでもよく観ていましたが、カラオケは日本人にとって、ストレスを発散するとてもよい方法になっていることがよくわかります。
夜10時半で警察に注意されちゃうの!?
ギリシャ人の私の目から見て、とても特徴的だったのが、皆の前で歌うということでした。ギリシャでは、生バンドの演奏と一緒に歌っている歌手に合わせて皆で歌う、ということはありますが、大勢の前で、1人で歌うというのはなかなかありません。
皆と一緒に気分よく歌っていた人が、マイクを渡された途端「ダメダメ、歌えない」と恥ずかしがることは、よくある光景です。なので仲間内とはいえ、1人で大勢の前で歌うのは、素直に「すごいなぁ」と思います。ちなみに、私はカラオケで歌うとき、とても緊張します……。
もう1つ印象に残っていることがあります。年末に日本へ行ったとき、飲み会が終わった後、帰宅するためにバス停でバスを待っていると、高校生と思われる女の子が警察官に注意されていました。しばらく遠くから眺めていると、警察の方は女の子たちの家に電話して、「夜遅くに出歩かないように」と家の人に注意していたようでした。
正確な時間ははっきりと覚えていませんが、たしか夜の10時半とかそのくらいだったと思います。ギリシャ人の感覚からすると、そこまで遅い時間ではなかったので、とても驚きました。やっぱり、国によって習慣や考え方は異なりますね。
ギリシャですと、中学生、高校生くらいの子どもが、週末の夜、友達と一緒に出掛けることはとても一般的です。中学生ですとだいたい夜10時ごろまで、高校生になるともう少し遅くまで遊んでいます。もちろん子どもたちに携帯電話を持たせるなどして、両親は子どもがどこで何をしているのかを確かめられるようにしています。
この「習慣」は小学生のころから始まっていて、たとえば両親が友人とカフェなどでコーヒーやお酒を飲みながらおしゃべりを楽しんでいる横で、子どもたちが遊んでいるのは、至って普通の光景です。両親も子どもを連れていく場合は、広場など子どもが遊べるスペースのあるところを選びますが、小学校高学年くらいの子どもでも、日付が変わるくらいまで遊んでいるのをよく見かけます。遊び疲れて、テーブルで寝てしまう子もいますが(笑)。
ギリシャ人はなぜよく話すのか
これが中学生、高校生くらいになると、友達と出かけるようになります。3世代で同居しているケースが多いギリシャでは、お祖父ちゃんお祖母ちゃんからお小遣いをもらうこともありますし、クリスマスにはクリスマスキャロルを歌ってお小遣いをもらいますので、これらのお金が子どもたちの資金源となります。
さすがにお酒は飲みませんが、カフェに行ったりクレープ屋に行ったり、友人たちと楽しい時間を過ごします。基本的には友人とのおしゃべりを楽しむのがギリシャスタイル。1杯のフラッペ(ギリシャでよく飲まれる泡立てたインスタントコーヒー)で、2、3時間ねばるのは当たり前で、店員さんも文句は言いません。
日本人の夫は、「ギリシャ人は本当によく話す」とよく驚いています。確かにコミュニケーション能力は高いかもしれません。私の父は、世界遺産にもなっているメテオラ修道院群があるカランバカという街の近くの出身ですが、この辺りに住んでいる人はギリシャの中でも特に社交的な人が多くて、会ってすぐに友達になります。父もレックス(うちで飼っているドーベルマン、7歳ですがまだ独身、泣)と散歩に行くと、いつも新しい友達を2、3人作ってきます。
ギリシャによく話す人が多いのは、伝えたいことを多く持っているから、というのも1つの要因かもしれません。ギリシャでは、意見の強い人が多いので、自分の思っていることを言い合っていると、どうしても会話も長くなりがちです。よくジョークとして言われるのは、2人のギリシャ人が話し合いをすると3つの意見が出てくる、ということです。
夫はギリシャで剣道を教えていますが、剣道の大きな大会の後などは、道場のメンバー同士で議論をすることも多いです。今ではインターネットのストリーミング放送などもあるので、日本で行われる大会もリアルタイムで観ることができます。私も、今年9月に韓国で行われた剣道の世界大会にギリシャ代表として出場しましたが、この大会もインターネットを利用すれば、リアルタイムで観ることができたそうです。
「今年の全日本選手権は去年に比べて内容がよかった」なんて 剣道を始めて半年も経たない人が、 このようなことを言うこともあります(笑)。 「あなた、去年の大会の時は剣道を知らなかったでしょ!」とツッコミたくもなりますが、恐らく話している本人は初心者には初心者にしかない視点があると考えているのだと思います。経験が浅いからこそ、見えるものもある。そう考えているからこそ、初心者でも、そのとき思ったことをしっかりと自分の言葉にして話すのかなと思います。
日本人から見ると、もっと働くべきかもしれないが…
夫もこういう話を聞くと、初めのうちは苦い顔をしていましたが(笑)、最近は「そういう考えもあるね」と答えるようになりました。初心者の考え方はすぐに変わるということがわかったのだと思います。現に少し経ってから同じ話をすると、「そのときはそう思っていたけど、考えが変わった」という人が大半です。もちろん、中には鋭い指摘をする人もいて、そういう人の意見は参考にさせてもらいます。
経験のあるなしに関わらず、自分の考えを大切にして、意見を伝えるというのは、ギリシャ人の特徴だと思います。根拠のない自信というか、本当に「その自信はどこから来るの?」と思うこともありますが、自分を強く信じている人が多いです。『龍馬伝』に出てくる、何があっても挫けない弥太郎のように。
気の合う友人と政治からスポーツまで、さまざまな事柄について、あーでもない、こーでもないと話すのが、ギリシャ人にとってはとても楽しいものになっています。飲み会にしても、飲む人は飲みますが、お酒を飲むことより話をすることを楽しむ人が多いので、ビール1、2杯で終わる人もけっこういます。あまりお金をかけずに楽しむことができるのが、ギリシャという国かもしれません。
ギリシャには、お金では測れない価値を大切にしている人が多くいるような気がします。家族を大切にしたり、自分の好きなことをする時間を持ったり。日本人から見ると、もっと仕事をして収入を増やしたほうがいいと思うかもしれませんが、やっぱり意見の強いギリシャ人ですから、譲れないものは譲れません。
最近、日本では「ぼっち系YouTuber」というジャンルもできつつあると聞きます。1人で食事をしているところを映像にしたり、「ぼっち」の視点から普段の生活を解説したり、そういった動画が一定の人気を集めているようですが、おしゃべり好きなギリシャ人が見たら「友達を作ったほうがいい!」と言ってくるかもしれません。そうなったら、いつもコーヒーを飲みながらのおしゃべりで鍛えているギリシャ人を言いくるめるのは、なかなか難しいかもしれませんね!(笑)
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