政府が「副業解禁」の方針を打ち出してから約2年。けれど、いまだに7~8割の企業は副業禁止のままだと言います。果たして、日本企業に副業・兼業は浸透していくのでしょうか? 経験とスキルを複数社で活かすプロ人材のプラットフォーム(プロシェアリング)を運営するサーキュレーション代表取締役社長の久保田雅俊さんに聞きました――。
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■ドラスティックには変われない理由

日本は製造業で成長してきた国です。たとえば自動車を例にとってみても、その部品は3万パーツにものぼります。部品メーカー、溶接工場、数百もの関連企業が効率よく機能しながら、精度の高い製品を世界に出していった。働く人は、正社員か契約社員か、あるいは派遣社員、アルバイトか。雇用形態はせいぜい3~5種類くらいで、それがまた効率的な生産のためには有用でもあったのです。モノづくりのための仕組みは日本の誇る宝物であり、だからこそ90年代には日本は世界一のODA大国、世界一寄付をした国にまで成長することができました。
こうした歴史的背景を考えれば、企業が一気に多様な働き方を推進する方向へと舵を切れないのも、やむを得ないことだと思います。もちろん会社にとってみれば、人事は常に重要な課題です。副業・兼業も解禁したいと模索している企業のほうが多いはずです。けれど、まだ成果を出すための仕組みが確立されていないし、成功事例も不足している。
現時点で「副業・兼業が進まない」からといって悲観する必要はないと思います。いま、私たちはまさに変革の渦中にあり、イノベーションの途上にいるのです。
私たちが直面している働き方改革は、言ってみればワークスタイルとライフスタイルの革命、働く価値観の革命です。
産業革命には、70年もの時間がかかったと言います。働き方改革関連法が施行されて、まだ半年余り。日本の働き方の革命は、まだ始まったばかりです。

■外の知見を入れる土壌はできつつある

外部の知見を使ってアイデアを創出するオープンイノベーションは、すでにビッグワードになっています。
また、SDGs(持続可能な開発目標)やESG投資など、人類の進化、存続において重要なことを中期的な指標にしなければ、という課題もあります。かつては経営者の意志で決まってきた会社のビジョンが、社会からも投げかけられる時代になっているのです。
日本は製造業で成長し、平和で豊かな国になった反面、イノベーションには弱い部分がありました。けれど、だからといって日本の経営者がこの動きに鈍感だというわけではありません。過去の資産も生かし、比較しながら、新たな戦略をつくっていくときです。変化に順応できない会社は徐々に淘汰されるでしょう。オープンイノベーションによって、外の「正なる答え」「悪しき答え」のなかから、正しい答えを会社に生かしていくことが求められています。
いま、世界中で働き方改革のムーブメントが起きています。働き方の選択肢が一気に多様化しているのです。ただ、このムーブメントは、世界均一の結果にはならないでしょう。各国ごとに、その歴史的背景を生かしながら、変化していくはず。特に、日本はその色合いが濃いだろうと考えています。私たちは、日本なりの働き方改革の成功例を出していかなければなりません。

■ここ数カ月で見えてきた新たな変化

副業・兼業、フリーランスなど、新しい働き方をしたい人にとっては、大きなチャンス。これまでの実践者は、どちらかといえば流れに身を任せていたら、いつのまにか新しい働き方に行き着いた、という方が多いように思います。たとえば出産や子育て、配偶者の海外転勤による移住など、さまざまな理由で会社を離れた人が、個人として声をかけられて仕事をし、成果をあげる。もともと能力が高く、謙虚で、活躍してきた下地があればこそですが、やむを得ず退職した先に新しい働き方があったという方々です。
それが、まさにここ数カ月、自らの意思で踏ん切りをつけてスタートを切る方々が増えてきています。彼らを見ていると、前向きに、そして徹底的に目の前にある仕事に取り組んできたことが、新しい働き方の潮流にのっていく準備につながったのではないか、と思います。

■副業を認めない上司を説得するには?

「会社としては副業容認なのに、直属の上長が認めてくれない」。こんな悩みを抱えている方もいるかもしれません。
重要なのは、上司や関係するチームとどうコミュニケーションをとるか、だと思います。
現在勤めている会社での仕事、これから始めたい他社での副業・兼業、あるいは個人での事業、どちらも本気であるはずです。仕事とはそうでなければいけませんし、本気であるなら、何かを隠したり、意図的に伝えないようなことがあってはいけないでしょう。
その際、何を軸に伝えるか、という点においてはポイントがあると思います。それは、「give」、何を与えられるかです。自分が副業・兼業をして成長することで、会社にどんなメリットを与えられるのか、ということです。
副業・兼業の実践は、自己成長・自己伸長の機会であることは間違いないでしょう。けれどそこを強調しすぎるのは危険。利己的に聞こえてしまうからです。同じことを伝えるのでも、「私はこうなりたい」というwillを軸にするのか、「会社にこういうことを還元したい」というgiveを軸にするのかでは、まったく印象が異なります。

■副業・兼業時代に強い人材の条件

さらに言えば、最も大事なのは「why」。なぜ副業・兼業をするのかです。これは上司への交渉に使うものではありませんが、副業・兼業をするにあたっては明確にしておくべきポイントです。
冒頭で多様な働き方を受け入れる準備が整っていない企業のことを述べましたが、個人の側からみると、なぜ副業をするのか、そのビジョンが明確でないケースも散見されます。つまり、かつては副業・兼業と言えば、お小遣い稼ぎ、生活費に困っている人がするもの、といったイメージが強かった。そうした捉え方ではなくなった今、では副業・兼業をして何をかなえるか? わかりやすい指標である報酬一つとってみても、ではどのくらいを目標値とするのか? 自分の人生と重ね合わせて答えられる人は、まだ少ないのではないでしょうか。
これがなければ、本業と副業の両立は長続きしません。
“FIND YOUR WHY”。これからますますこれが大事な時代になってきます。自分の「why」を持っている人は、副業・兼業・個人で働くマーケットでも強い。なぜやるかが明確な人は、パートナーシップも組みやすいものです。外の世界でも同じ方向を見る仲間を増やし、ビジョンを実現していくことができるでしょう。
さて、「give」を軸に話をしようとしても、聞く耳すら持ってくれない、という上司ならば? それはもうその上司、あるいは会社が脆弱です。会社の体制を変えるように求めていくか、あるいは見切りをつけてもいいかもしれません。
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久保田 雅俊(くぼた・まさとし)
サーキュレーション代表取締役
1982年生まれ、静岡県出身。新しい働き方を追い求め、学生起業、家業の清算、会社員としての管理職、パラレルワーク、社会起業を経験する。学生時代に複数の事業を立案し学生起業家となり、パラレルワークを実現。21歳のときに、地元の有名塾を経営していた父親が意識不明となり、10年間に渡って、父親の介護を余儀なくされる。父親が経営していた企業は継続不可能となり、自身の手で会社の清算をすることとなる。その経験から企業経営には「金」以上に「人の経験・知見」が必要であるという考えにたどり着いた。2014年株式会社サーキュレーションを設立。プロフェッショナル人材の経験とスキルを複数社で活かすプラットフォーム(プロシェアリング)を運営している。創業5年で、経営プロフェッショナルのネットワークは1万3000人、導入企業は1500社を超える。
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(サーキュレーション代表取締役 久保田 雅俊 写真=iStock.com)