2019年6月8日土曜日

非常勤講師は無給労働も⁉️ 増加する外国人に対応する日本語教師の知られざる苦労

非常勤講師は無給労働も⁉️ 増加する外国人に対応する日本語教師の知られざる苦労





外国人労働者受け入れの増加に対し、日本語教師の拡充は急務だ
 改正入管法の施行により、外国人労働者の増加が見込まれる中、外国人への日本語教育の需要が高まると予測される。そのような中、「日本語教育現場の実情」を筆者の体験や現役教師の話をもとに紹介する。

◆「日本語教師」という曖昧なステータス

 5月中旬に配信した記事では「外国人がつまずく日本語」について紹介したが、今回は「日本語教師という仕事」について綴ってみたい。

 日本語教師が面と向かってよく言われるのは、「英語が堪能なんですね」という言葉。そして、陰でよくなされるのは、「母国語である日本語を教える楽な仕事」という誤解である。

 日本語教師になるのには、今のところ、国内の小中学校・高校で働く教師らが保持する「教員免許」や資格などは必要ない(現在、国が日本語教師の公的資格の創設を検討しているところだが、現時点では何も決まっていない)。

 こうした曖昧なステータスや基準が、日本語教師の軽視や薄給、スキルのムラに繋がっていることはさておき、つまるところ「日本語を教えたい」、「異文化に触れたい」と思えば、現在は誰でも“日本語の先生”にはなれるのだ。

 しかし、日本語を教えるノウハウを学んだことのない人に、例えば「食べて」と「飲んで」がどうして「て」と「で」になるのかを、初級レベルの外国人に日本語で説明できる人はほとんど存在しない。

 そのため、国内にある大概の語学学校は、「日本語教師養成講座420時間の修了者」か、「大学での日本語教育専攻・副専攻課程の修了者」、「日本語教育能力検定試験の合格者」のいずれかでないと、教師として雇い入れていないのが実情である。

 ちなみに筆者は、420時間の日本語教師養成講座を20代半ばで受講・修了し、父親の工場で働く合間に、複数の語学学校で断続的に7年ほど「非常勤講師」として働いていた。

◆煩雑な日本語教師の業務

 一般的に、語学学校の日本語教師には「専任」と「非常勤」が存在し、その割合は圧倒的に非常勤が多い。

 非常勤のほうが多くなる理由はいくつかあるが、入学してくる学生数が、時期やレベルなどで毎度大きく変わるため、学校にとって割り当ての調整がしやすいことが最も大きな要因として挙げられるだろう。

 留学生を受け入れている日本語学校では、1つのクラスを数名の教師で担当することが多い。

 学生にできるだけ多くの日本語話者と触れ合わせることで、「1人の日本語教師の意見=日本の意見」になるのを防ぐのだ。

こうした工夫は、学生にとっても教師にとってもメリットが多い一方、教師間の「引継ぎ」業務が煩雑になるというデメリットもある。

 これは、日本人に多い「真面目で細かな性格」あってこそ成せる技なのだが、国内のほとんどの日本語学校では、各クラスの1学期分の授業内容が、授業数などによってあらかじめ大変細かく組まれる。

 さらに、知らない単語や文法を授業中に使うと、学生が混乱するという配慮から、原則的に教師は、前回の授業までに学生に導入した単語や文法のみを使って、次のクラスを進めていかねばならないという日本語教育業界独特のルールがあるのだ。

 こうした中、「引継ぎ」業務が煩雑になるのは想像に難くないだろう。

 翌日の授業を担当する教師のため、授業後に記入する「授業報告書」には、教えた単語から欠席した学生、使用した例文や各学生の反応までもがぎっしりと書かれるのが常。

 一方、その報告書を受け取った翌日担当の教師は、授業時間と同じくらいか、時にはそれ以上の時間を費やして、授業準備をする。導入済みの単語や文法のみで授業を進められるよう、「教案」を完璧に仕上げて「本番」に臨むのだ。
筆者は過去に韓国とアメリカの語学学校に在籍し、他国の語学学校の様子を取材したことがあるが、この「連携プレイ」ができるのは、やはり世界でも日本の語学学校だけだと胸を張って言える。

◆授業で「タブー」とされるトピックスは「歴史」、「宗教」、「性」

 こうして毎度異文化に触れながら働く日本語教師だが、英語や他国語のスキルが必要かというと、そんなことはない。

 海外から赴任してきた忙しいビジネスマンたちは効率重視になるため、英語や彼らの国の言語で授業をする「間接教授法」が使われることが多いが、前回にも紹介した通り、国内にある日本語学校の

 ほとんどでは原則、日本語で日本語を教える「直接教授法」が用いられており、英語や外国語が話せなくても日本語を教える上では全く問題ない。

 むしろ、文化や文法が似ているアジア諸国の学生からの鋭い質問にも対応できる、日本文化に対する深い知識と正しい日本語能力を持っていたほうが授業進行には断然いいのだ。

 が、この「文化」においては、自国のものだけでははく、他国の文化や特徴もある程度知っておく必要がある。

 というのも、教室の中の国籍は時に10か国以上にもなるため、授業内容によっては、他国から来た学生同士が衝突する恐れがあるからだ。

 その中でも「タブー」とされるトピックスがある。

「歴史」、「宗教」、「性」の3つだ。

 かつて筆者が籍を置いていたニューヨークの語学学校では、教師が唐突に「広島と長崎に原爆が落ちてよかったと思うか」、「娼婦は必要か」、「ニカブの使用禁止はアリかナシか」などを、日本人学生やイスラム系学生がいるクラスでディベートをさせていたことがあり、アメリカ人がどうしてディベートに強いのかを、ある意味思い知ったことがあったのだが、日本語学校では特段の意図がない限り、これらが扱われることは一切ない。

 アメリカと比べると、日本語教育の現場は、日本文化特有の「和」を意識した授業づくりが行われている、といえるのかもしれない。

 このように「もてなし」の文化がふんだんに盛り込まれる日本語教育の現場だが、一方で、非常勤で働く教師においては、以下のような問題点も顕著になっている。

◆非常勤の日本語教師という職業が抱える問題点

1.男性日本語教師の不足

 男性の日本語教師が少ない理由は、非常勤の給与だと家族を養うには全く不十分であることにある。

 日本語を学ぶ学生にはもちろん男性もいるのだが、同性だからこそ共感できる感覚や、男性特有の話し方や仕草などを学ぶ場が必然的に少なくなっているという現状がある。

2.社会経験不足

 一方で、非常勤で働く日本語教師には、グローバル思考の強い若い新卒者なども最近増え始めてきているのだが、日本語を学ぶ学生には、ゴールを「日本での就職」や「国際間ビジネス」に置いていることも多く、彼らの授業に日本のビジネスマナーや経済動向などを盛り込める「社会経験豊富な教師」が不足しがちになっている。

3.日本語教師の過酷な労働現場

 日本の「もてなし文化」に沿い、世界に類を見ない高品質な授業を提供している一方、それを一手に引き受ける日本語教師の労働環境は、まさに過酷。これについては今後、追って詳しく紹介するが、授業に必要な教材を準備する時間や、先に紹介した「引継ぎ業務」などは、非常勤講師の場合無給であることが多い。

 こうした「準備にかかる労働」などの問題は、日本語教師のみならず、国内の「教員」全てに共通した問題だと言えるだろう。

 日本語教育を必要としている外国人の数は、外国人労働者の受け入れにより昨今急増している。

 日本の経済を「言葉や文化」で支えている「陰の功労者」たちは、こうして日々多文化と向かい合い、過酷な労働環境の中でも「もてなしの心」で教壇に立っているのだ。

【橋本愛喜】
フリーライター。大学卒業間際に父親の経営する零細町工場へ入社。大型自動車免許を取得し、トラックで200社以上のモノづくりの現場へ足を運ぶ。日本語教育やセミナーを通じて得た60か国4,000人以上の外国人駐在員や留学生と交流をもつ。滞在していたニューヨークや韓国との文化的差異を元に執筆中。


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