画像提供:マイナビニュース
●ドンキの「情熱価格」がすごいらしい

筆者(諸山)がマイナビニュース・デジタル編集部の新米編集、瀬尾俊輔氏から一通のメールを受け取ったのは、年が明けてしばらく経った2月のことでした。

メールによると、日本最大級のディスカウントストア「ドン・キホーテ」のプライベートブランド(PB)「情熱価格」の家電製品が気になるので、一緒に取材しないかとのこと。家電事業がメインではない企業が販売するPB家電。好奇心に釣られておびき出されてしまいました。なお、記載の価格はすべて税別です。

○ドンキの本社、中目黒にある

取材のため、やってきましたドン・キホーテ本店。すぐ奥に本社ビルがそびえています。ドン・キホーテの本社が中目黒にあるってご存知でしたか? 東急東横線/日比谷線の中目黒駅から徒歩10分、東急田園都市線の池尻大橋駅からも同じくらいの距離にあります。

瀬尾:おはようございます! 今日はズバッと決めるんで、よろしくお願いしますね!

諸山:威勢がいいですね~。いい話が引き出せるようがんばりましょう。

瀬尾:家電を安く買いたいと思うユーザーにとって、「驚安」(ドンキの造語で、「きょうやす」と読みます)をキャッチフレーズにするドン・キホーテが家電を売っているとなれば、気になると思うんですよ!

諸山:少し前ですが、50V型で5万円を切る4Kテレビは、ネットで「ジェネリックREGZA」と呼ばれてバズりましたからね。

瀬尾:そう! テレビ以外にもPB製品で、完全ワイヤレスイヤホンとか、ドライヤーとか、いろいろあるんです。でも、どれも価格が安すぎて「使って大丈夫なのかな」って思う人はいると思うんですよ。

諸山:独自のタブレット端末や炊飯器、モバイルバッテリーなんかも販売しているようですし、家電メーカーの純正品もどんなものをラインナップしているかも気になりますね。

○吸い込まれる売り場、工夫がいっぱい

瀬尾氏と一緒に、店内2階の家電売場(?)を目指します。店内に入ってすぐに気が付くのは、曲線的な通路をあえて採用していること。

店内を進んで行くにつれ、次々と気になる品物が目に入り、どんどん奥へ奥へと誘い込まれる仕掛け。ヘンゼルとグレーテルの森のようじゃないですか。

※ドン・キホーテはお店ごとに大きな裁量があり、店舗は取り扱う製品、陳列する場所などをある程度は自由に決められます。なので電化製品売り場の位置やラインナップは店舗によって異なります。ドン・キホーテ中目黒本店では、2階に多くの電化製品をそろえていました。

●なんでこんなに安いんですか?

現代の森を抜けて我々を出迎えてくれたのがこの人! ドンキのSPA開発を担当する柄澤さんです! (SPAは製造小売の略で、小売業者が自社で売る製品を自分で開発することを意味します)

柄澤:いらっしゃいませ! お待ちしてました!

勇気を試されていた瀬尾氏の声が聞こえたのか聞こえなかったのか、「NAKAMEGURO SELECTION」と書かれたボードとセットになった炊飯器を片手に、微笑みながら声をかけてくれました。

○IH炊飯器も1万円切り

柄澤:こちら、アイリスオーヤマさんと共同開発した炊飯器なんです! アイリスオーヤマさんはお米の開発もしている、お米屋さんでもあります。お米屋さんだからこそできた独自の炊飯技術を搭載し、お米本来の旨味を引き出すことで「絶品ご飯」を炊ける炊飯器なんです!

この炊飯器は、ドン・キホーテ「情熱価格」の中でも、付加価値を提案する「情熱価格プラス」で人気アイテムの1つ「米屋がこだわった三合ジャー炊飯器」。発売以来、13万台を販売しています。柄澤さんが手に持つ天面が赤のモデルは、ドンキだけの限定カラー。

3合炊きのマイコン式「米屋がこだわった三合ジャー炊飯器」は7,980円。5合炊きのIH式「米屋がこだわった五合ジャー炊飯器」も9,980円でラインナップしました。IH式を開発するにあたっては、1万円を切る価格にこだわったと話します。

○夢の50V型4Kテレビにも手が届く

「情熱価格プラス」と聞いて思い浮かぶのは、「ULTRAHD TV 4K液晶テレビ」。2017年6月に発売された50V型4Kテレビは、54800円(発売当時。2019年3月現在は49,800円)の激安価格ながら、東芝「REGZA」の高画質エンジンを搭載していることで話題になりました。

50V型の4Kテレビは累計4万台を販売するヒットとなり、続いて58V型を59,800円でリリース。最近になって43V型を39,800円でラインナップしました。

瀬尾:どうしてこんなに安いんですか? ぶっちゃけちょっと怪しい感じがします……。

柄澤:よくぞ聞いてくれました! ネットワーク機能など、テレビ視聴で必須ではない機能を省きました。

瀬尾:ネットワーク機能を省くだけで、こんなに安くなるものなんですか?

柄澤:そこから先は聞かないでください! 企業努力です!

ニヤリとやり過ごす柄澤さんでしたが、ドンキのPB製品が安いのは必要な機能だけをギュッと抽出したというほかに、販促費用をかけないことが挙げられます。基本的に販促はプレスリリースを出すだけで、広告費は一切使わないとのこと。

柄澤:本当にこだわって選びたい人は、自分で情報を集めます。圧倒的な価格で話題になれば、あとはニーズを満たせるかどうかユーザー自身で調べて、欲しければお店に買いにきてくれます。我々にとって販促宣伝の費用は、低価格実現のためにカットできるコストなのです。

瀬尾:ちなみに4Kテレビはどういうユーザーに人気なんですか?

柄澤:あまり、「こういう人」という具体的ターゲットは定めずに開発しました。年齢、男女、家族構成、収入などによるかたよりもあまりありません。

瀬尾:どこのお店が一番売れているとかってあります?

柄澤:4Kテレビがよく売れているのは、沖縄のMEGAドン・キホーテ宜野湾店です。九州・沖縄地区では最大級の広さで、駐車場は300台弱も車を止められる広さがあるので、休日などは大勢の人がいらっしゃいます。

続いて「情熱価格プラス」の中で、いま一番勢いのある製品を紹介してもらいました。

2月に発売した「360°撮影カメラ搭載ドライブレコーダー」。ドーム状のレンズを備え、前後左右を200万画素のカメラで撮影できます。価格は12,800円と、360度を撮影するドライブレコーダーの中では安い部類です。

広告は一切うっていないものの、お店に探しに来て、買っていくユーザーが多いそうです。ブラブラのぞきに来たユーザーが目ざとく見付けて、購入するケースも少なくないとか。

柄澤:シガーソケットから給電し、自動車のエンジンをかけると自動で録画を開始します。エンジンを切っていても、車の衝撃を検知すると録画してくれるんですよ。

瀬尾:360度しっかり自動録画できるのかあ。これなら高速であおられても、証拠をきっちり残せますね。

ちなみに一番の売れ筋なのに、売り場は店舗で一番奥。下手したら見逃してしまうような位置にありました。

○ドンキ社員に人気のPB製品は?

瀬尾:せっかくなので、ドンキ社員の間で一番人気のPB製品を教えてください!

柄澤:社内ですか……、う~ん。それならワイヤレスイヤホンかな。シーンに合わせて左右が独立した完全ワイヤレススタイル、左右イヤホン間をケーブルでつなぐワイヤレススタイル、有線イヤホンスタイルを使い分けられる「3WAYワイヤレスイヤホン」です。「情熱価格」の中でも、品質、機能、デザインにこだわった最上級ブランド「情熱価格プレミアム」の製品となっています。

瀬尾:やっぱりワイヤレスは人気なんですね。最近のヤングな世代はワイヤレスな印象があります!

柄澤:好みだと思いますが、最近は安くて音もいいものが増えてきたので、イヤホンはワイヤレスが主流になっています。若い世代は特にワイヤレスが人気ですね。中学生や高校生も購入する人が多く、お小遣いで買える値段に加えて、2年間の保証付き※なのも喜ばれています。

※ドン・キホーテ電子マネー「majica(マジカ)」に登録しているユーザーのみ。登録していないユーザーの場合、保証期間は通常1年です。

瀬尾:確かに最近、ワイヤレスイヤホンを使う中学生や高校生を見かけることが増えました。

柄澤:技術開発にも力を入れており、音の途切れを少なくしたことが好評です。今後はもっと音質にこだわろうと研究しています。

イヤホンコーナーはかなり充実していて、5,000円を切るものから3万円台のものまで並んでいました。

○迫力の圧縮陳列

そんなイヤホンコーナーのすぐ近くには、美容家電のコーナーがありました。上品さなどどこ吹く風、迫力の圧縮陳列です。

目ざとく、大風量ドライヤーを見付けて手を伸ばす瀬尾氏。「情熱価格プレミアム」ブランドで取り扱う、テスコムと共同開発した「プロテクトイオンヘアードライヤー」です。

柄澤:ドライヤーは電源コードを外して展示してあります。試してみたい人はスタッフに声をかけてくださいね。

ドン・キホーテはスタッフ側から接客で声をかけることはなく、ユーザーは自分の興味関心のおもむくまま、自分のペースで気になる製品を見られるのがうれしいところ。展示機はどれも、ユーザーが自由に試せるものがほとんどです。

瀬尾:ボクが思うに、ドンキって安さや品ぞろえだけでなく、24時間営業も魅力だと思うんですよ。※店舗によって異なります。都内の場合、24時間営業ではなくとも、深夜までオープンしている店舗がほとんどです。

瀬尾氏がいつになくいいことを言った。

瀬尾:たとえば真夜中にお風呂に入ったあと、ドライヤーが壊れていることに気づいたとき……すっごいよくないですか?

諸山:ないわ! だいたい、濡れた髪のままで買い物にこないでしょう。

瀬尾:なに言ってんすか。ドンキならジャージで行くのもアリかな、って思えるのが魅力だと言っているんです!! みんな冬でも、ジャージのサンダル履きでドンキ行くでしょ?

柄澤:さすがにそれはないです。

中目黒の街をなにかと勘違いしたままドライヤーで遊ぶ瀬尾氏の周りには、ほかにも目を引く品物が目白押しです。

たとえば、よそのお店ではなかなかお目にかかれない耳掃除機「Ear Cleaner」を3種類も取りそろえていて、耳掃除機を「絶対に品切れさせないぞ」という高い熱を感じられます。

●これぞ驚安、2万円のノートPC

○ノートPCが2万円??

瀬尾:さ……余興はこれくらいにして、もっとビックリするようなの、見せてもらえませんか?

瀬尾氏の顔には、「あるんだろ? もったいぶらずに見せろよ、ほらほら」と書いてあります。

柄澤:かしこまりました。とっておきをお見せしましょう。

瀬尾氏の挑発を見過ごせず、柄澤さんが案内するその先にあったのは、なんとショーケースに入った、19,800円の14型フルHDノートPC「MUGA ストイックPC2」です。

柄澤:どうです、このスペックで2万円以下の価格を実現しました! よく見てください!

柄澤:ビジネスで文書作成したり、ネットで調べ物したりといった作業がメインの人向けの仕様になっています。動画編集や3Dゲームは厳しいと思いますが、作業マシンと割り切って使えば十分な性能です。このコストパフォーマンスは、PC専業メーカーでもなかなか出せないと思います。

瀬尾:ビジネス用ってことは、MicrosoftのOffice 365も入ってるんですか?

柄澤:「WPS Office」という互換ソフトを搭載しています。Office 365を入れると倍近く値上がりしてしまいますから。

「MUGA ストイックPC2(KNW14FHD2-SR)」のスペックはこんな感じ。

CPU : Intel Atom X5-Z8350(1.44GHz/最大1.92GHz)

メモリ : LPDDR3 4GB

ストレージ : eMMC 32GB

グラフィックス : Intel HD Graphics 400

ディスプレイ : 14.1インチ IPS液晶(1,920×1,080ドット)

無線LAN : IEEE802.11b/g/n

Bluetooth : 4.0

インタフェース : USB(3.0)×1、USB(2.0)×1、Mini HDMI×1、microSDカードスロット×1、3.5ヘッドホンマイク端子×1

バッテリー駆動時間 : 約7時間

本体サイズ : W329×D219×H20mm

重さ : 約1.2kg

「2万円のノートPCなんて、うさんくさい」と思う人もいるかもしれません。取材のあとで実機を借りて使ってみました。重たい作業をさせなければ、特に支障なく利用できます。キーボードやタッチパッドも普通の操作感で、使いづらさは感じません。ただし、キーボードの一部「}]」のキーや、「_」のキーがスペースキーの右側という謎の配置で、かな入力しているユーザーはかなり苦戦するかも。ローマ字入力でも使いづらかったです。しかし「安さは正義」とも言いますから、割り切って使うのはアリでしょう。

このほか「情熱価格」ブランドからは、デタッチャブルで液晶画面がタブレットになる2in1モデル「ジブン専用PC&タブレット3」も19,800円で販売されていました。こりゃ凄い。

瀬尾:ボクとしては、PC売り場の対面にあるキャラクターグッズコーナーも気になるんですが、PCと一緒に買う人がいるんでしょうか?

○こういうのが見たかったんです!

瀬尾氏の反応がイマイチ期待と違うと感じた柄澤さん。「そうだ!」とひらめきます。

柄澤:当社にしかない、オリジナル性バツグンの製品を思い出しました!

案内した先で取り出したのは、一見なんの変哲もないBD-Rメディアの50枚入スピンドルパック。

柄澤:これも「情熱価格」ブランドです。しかもくじ付きで当たりが出るともう1パック無料であげちゃいます。

瀬尾:マジですか! どうしよう、ボク、当たりが出るまで引いちゃうタイプなのに!

瀬尾:ところでそこにぶら下がっているあれ、なんですか。

柄澤:見つけてしまいましたか……。実はこれも「情熱価格」ブランドのオリジナル製品です。当社は販促に費用をかけないので、製品名を工夫しているんです!

瀬尾:工夫しているのは名前だけじゃないような……。

その名も「押忍! ケツ毛トリマー」、もはや解説不要!!! コイズミと共同開発した製品で、価格は1,480円でした。

通路側のエンドって、量販店では一等地のはずなのに、そこに押忍! ケツ毛トリマーをズラリとぶら下げているのは、ドンキならではの面白さ。しかもこれ、なかなか売れているそうですよ。使用感は追って瀬尾氏が詳細にレポートする予定です(?) 乞うご期待。

瀬尾:ボク、もうドンキで生きていくって決めました。兄貴って呼ばせてもらってもいいですか。

柄澤:やめてください(ニッコリ)。

変わった品物。面白いPOP。そして意味の分からない陳列。魅力あふれるジャングルのような売り場。ドン・キホーテの楽しさを垣間見た取材でした。

ちなみにドン・キホーテは、親会社のホールディングス会社の社名を、今年(2019年)の2月に変更しています。

諸山:社名を変えた背景は聞きますか?

瀬尾:そういうの興味ないっす。

瀬尾氏が興味ないのでパッと済ませます。新しい社名は「パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス」です。なぜ変えたのかは聞いていないので不明ですが(聞けよ)、お店の名前は従来と変わりません。