20代30代の夫婦の間で増えている「夫源病」。夫は自分の言動で妻にストレスを与えていると自覚していないことも。妻はどうやって身を守ればいいのだろうか(写真:Kazpon / PIXTA)

一時期、話題になった「夫源病」とは、読んで字のごとく「夫の言動が原因で、妻の心や体が不調になる」病気です。これは正式な病名ではありません。循環器医師の石蔵文信氏が長年、中高年夫婦の患者さんと接する中で気づき、命名したものです。
実は、私自身も夫婦問題をカウンセリングする現場でずっと同じことを感じていました。夫源病はもともと、定年後の喪失感や男性の更年期症状によるストレスを妻にぶつけることで、妻が病んでしまうものでした。
しかし今、私が夫源病について感じているのは、「発症の若年齢化」と「結婚直後の発症」の2点です。早い人は20代で、夫源病の症状が出ているようです。

あの上沼恵美子さんもかかってしまった厄介な「病気」

主な症状は、夫の暴言や心ない言動が原因で起こる、動悸、息切れ、めまい、不眠、食欲不振、躁鬱状態です。また、若い女性の場合、婦人科疾患になることも多いようです。特に、ストレスによる自律神経の乱れと女性ホルモンの関係性は、よく見聞きしますので納得できます。
最も症状が出やすいのは、「夫が帰宅するとき」、または「自らが夫のいる自宅に帰宅するとき」のようです。逆に、夫が出張や用事で家にいないとホッとして心身が軽やかになり、症状が落ち着くといいます。こんなことでは結婚した意味がありませんね。
つい最近のこと、タレントの上沼恵美子さんがまさに「夫源病」にかかっていた、というニュースが流れました。上沼恵美子さんといえば、歯に衣着せぬトークで、関西のテレビ界で押しも押されもせぬ、大人気タレントです。そんな上沼さんでさえストレスを抱えているということだけでなく、その原因がご主人ということで、ダブルで驚きました。上沼さんは体調不良を訴え、病院でカウンセリングを受けたところ夫源病と言われ、結婚41年目で別居されたそうです。このニュースで、この病名が一気に全国区になりました。
上沼さんは、1977年に当時、関西テレビのディレクターだったご主人と結婚。一度は引退したものの、その翌年に復帰。「働く妻」の先駆者として活躍されてきました。上沼さんのご主人は“THE昭和”的な価値観の持ち主のようで、上沼さんは大活躍後も甘んじることなく家事をこなし、ご主人に尽くし立ててきたそうです。そんなご主人は内助の功もあり出世し、関西テレビの関連会社の社長に就任。2008年には定年退職されたそうです。そして、ご主人のリタイアを機に、夫婦の関係性が変わったそうです。
上沼さんご夫婦が別居に至るきっかけは、やはりご主人の態度だったと言います。ご主人は定年後、趣味に熱中。しかし、家事を手伝ったり、忙しく働く妻を助けることはなかったそうです。あるとき、上沼さんが風邪をひき「熱があるみたいだから、早めに寝る」と言ったところ、「晩飯はどうなる?」と言われたことで、上沼さんのボヤキが増したそうです。

激増する若い夫による「夫源病」の5つの原因とは?

この手の話はとてもよく聞きます。日頃、家事と仕事を両立し、200%頑張っている妻が病気のときに、「大丈夫?」の一言が言えない夫。しかし、妻が仕事を優先しだしたら、それはもう大変です。
「もっと思いやりが持てないのか」「仕事と家族、どっちが大切なんだ」。そんな言葉の嵐が降ってくると言います。昭和の男は、つねに女性に母親を求めてきたのではないでしょうか。だから、「家事、料理」「自分の身の回りの世話」「家族、親戚の世話役」はできて当たり前。「やれないなら、仕事だ、趣味だと言うな」というのが、夫の本音でしょう。
もちろん時代は変わりつつあります。しかし、夫源病の原因となる夫は、上沼さんの旦那さんのような、50代以上の「昭和男」だけではないようです。実は、若年層の夫による「若年性夫源病」が増えているのです。
そこで、50代以下の夫源病の主な原因を5つ挙げました。
① 起業や趣味で輝き出した妻が許せない
最近、共働きが増えていますが、会社勤めだと家庭がおろそかになるという健気な妻の間で、「おうち起業」が増えています。並々ならぬ努力で時間を作り、「家計の支えに」「せめて自分のお小遣いくらいは」という気持ちで、起業をする方もいます。そんな妻に対して、嫌味を言う夫が実に多いのです。「俺の稼ぎじゃ不満なのか」「専業主婦では輝けないのか」といった器の小さい夫の一言が、夫源病の原因なのです。
② 妻の年収や肩書が上がった
仕事上、自分より下に見ていた妻の稼ぎやポジションが自分を超えると、夫のプライドはひどく傷つくものです。表面上おおらかに見えても、ほとんどの男性は、「器が小さい」と見て間違いありません。「男性はコンプレックスの塊」という言葉を耳にします。つまり、いくつになっても子どもっぽいということです。そんな夫のプライドがズタズタになり、その矛先が妻に向かうようです。
③ ほかの用事を優先し、自分をおろそかにする
どちらかと言うと、女性は男性より協調性のある人が多いと思います。そのため、人付き合いが多く、それによるメリットもあると思います。しかし、意固地なタイプの夫は、これが実に気に入らない。かと言って、休日は一緒に出掛けるわけでもなく、帰宅しても会話をするわけでもない。ただただ、外交的な妻が許せないようです。

価値観や性格の違いを認められない

④ 仕事で家事がおろそかになるのが許せない
女性は責任感が強いと言われています。ましてや、新しい仕事、新しい環境において、信頼関係を築くまで時間とエネルギーが必要です。ついつい頑張りすぎて、帰宅後はいつものように家事ができないこともあるでしょう。しかし、それが許せないのが夫です。だからと言って、率先して家事を手伝うわけでもないのです。
⑤ 自分の親兄弟、友人を否定する
結婚相手とは、価値観が違うところに引かれて結婚する人も多いはずです。しかし、月日が経つと、その歪みが出てくるものです。今まで大切にしていた友人や、自分の実家を否定してくる夫がいます。正義感の強い妻は、そんな暴言に耐えられなくなってしまうのです。
従来型の夫源病は、夫の退職後に発症していました。定年後、自らの存在価値(収入、肩書、部下など)を失った夫と、自らの生活を乱された妻のストレスが原因でした。しかし、若年性の場合は、その限りではありません。夫婦それぞれの価値観や性格の違いが、2人の間に溝を作り、それが悪いほうへ発展してしまうようです。
だからと言って、関係改善が不可能なわけではありません。ちょっとしたきっかけが、風通しをよくしてくれるものです。以下5つのポイントを挙げてみます
1. まずは「相互理解」が大切
お互いが多くのストレスを抱えている事柄について理解することが大切です。社会構造が大きく変化し、年功序列から実力主義に変化しています。「シフトチェンジ」が苦手な人は、特に社内で心理的に苦しい立場にいるはずです。見えない重圧に、真面目な人ほど押し潰されてしまいます。今まで「夫の悪口」ばかり書いてきましたが、そんな夫の気配に、妻は気づくべきです。
一方の妻は、職場では「女は仕事に家庭を引きずり込むから使えない」、家庭では「家事がおろそかになるなら、仕事なんてするな」という雰囲気を感じたり、実際に言われて苦しんでいることが非常に多いわけです。どこへ行っても自分が認めてもらえず、いちばん理解してもらいたいはずの夫にわかってもらえず悩んでいます。
2. お互い「言うべきこと」を言わないと病は進行する
夫婦問題を抱える方の多くは、これができていません。特に、妻の側が夫に対して「これが嫌」と言えない、言わないことで、夫源病がどんどん進行していきます。感情的になる前、我慢の限界に達する前に、伝えるべきことを伝えることが肝心です。なかには、自分の言動によって妻に多大なストレスを与えている自覚がない夫もいます。正直に伝えられたことで、反省し、自分のあり方を見直す夫も少なくないと思います。
妻から正直に伝えられた夫の側が、言われたことで怒鳴ったり、嫌味を言うのはマナー違反です。
3. 夫婦のポジションチェンジはできているか
夫婦はスポーツで言うと、団体競技です。「阿吽(あうん)の呼吸でわかる」などということはありません。昔の女性は夫に従えばよかったのかもしれませんし、それで夫婦関係が作れたかもしれません。しかし、そんな時代はすでに終わっています。「家庭生活」をする仲間として、家事分担や経費分担、休日の過ごし方などのルールを決めましょう。そのためには、ミーティングを重ねること。「PLAN」「DO」「SEE」を繰り返しましょう。

結婚したからといって、相手は自分の分身ではない

4. お互いが執着を捨て認め合う
いまだに、パートナーを自分の分身と思っている人がいます。それはナンセンスです。別個の人間として認め合いましょう。パートナーの行動がすべてわからないと不安という人もいますが、それではお互いに嫌気が差すだけです。パートナー以外に、夢中になるものをみつけましょう。また、お互いのスキルアップを喜び、認め合うのも大切です。パートナーを認められない人は、人間力が足りていないと断言できます。
5. お互いが「自立」をする
夫は家事もできるようになること、そして、社外の人付き合いの場を作ることが重要です。一方、妻は精神的、経済的に自立できるようにすること。お互いに依存しすぎる関係があるなら、卒業しましょう。
今回は「夫源病」をとりあげましたが、もちろん「妻源病」という言葉も存在します。そもそも、自分とは違う個性や、周りにはいないタイプの相手を好きになったことをくれぐれも忘れないでください。そして、お互いへの感謝とねぎらいを忘れずに、夫婦関係を構築していきましょう。