昭和の時代、お金が貯まらない原因は夫の散財にあった。時代は変わった。イクメン、共働き、副業……。1万軒以上の家計を再生してきたプロが最新の「困った妻」「厄介な夫」事情と対策をアドバイス!

■「飲む、打つ、買う」よりタチが悪い

昭和の時代には「飲む、打つ、買う」で散財する夫や、「自分で稼いだお金なのだから自由に使って何が悪い」と趣味にお金を注ぎ込む夫の姿が珍しくありませんでした。
写真=iStock.com/b-d-s
しかし、“イクメン”という言葉に代表されるように、近年は子育てや家事に積極的にかかわり、家計にも気を配る夫が増えています。それどころか、妻がお金遣いで多少暴走しても、夫がいったんは受け止めようと、やさしさを見せたりする傾向すら強まっています。これに乗じてか、妻は見栄、プライド、不安から、とくに「子ども」や「ママ友との付き合い」がらみでお金を使いすぎるケースも増えています。
▼最近の傾向・特徴は……
【夫】子育てや家事に積極的にかかわり、家計にも気を配る。妻が散財しても受け止めて、やさしさも見せる

【妻】見栄、プライド、不安から、とくに「子ども」や「ママ友との付き合い」で使いすぎる
とはいえ、夫が見せるやさしさが“真のやさしさ”かどうかは疑わしいところ。家計相談に来る方は、昔は主婦など女性が多くを占めていましたが、最近は男性相談者の増加が顕著です。しかも、妻に正面から意見を言えない夫が多く、私のところへ夫妻で面談に来る前に、夫から電話で「こんなふうに妻に言ってほしいんです」と頼まれることも珍しくありません。
ただ、1つだけいえるのは、家計について夫婦で話し合っているケースが増えているという事実。そこで本音を語り合い、互いの価値観を1つの方向へと一致させることができれば、家計の問題が解消できる可能性はより高まっているといえます。
ところが、共働きで夫婦それぞれが経済的に独立できる状態だと、消費志向もバラバラとなりがちで、その分お金がかかる。「その費用は家計から出すのか、小遣いから出すのか」でもすり合わせが難しくなります。しかも、「家計から出る費用なら、ちょっとくらい高いモノを買ってもいいだろう」となるから不思議なもの。どちらも同じ懐から出ているお金のはずなのですが……。
そうした中、「思いがけないこと」が家計の赤字につながっているというのも最近の傾向です。無駄遣いという認識がないだけに、昔の「飲む、打つ、買う」よりタチが悪いかもしれません。
たとえば、次々と出てくる「代行サービス」。共働きが当たり前となったいま、家計収入は増えたかもしれません。しかし家事にかけられる時間が減り、掃除、洗濯、料理などがままならない。そうなると、お金で解決しようとなるわけです。モノが売れない時代にあって、企業はさまざまな便利サービスで対価を得ようとしています。極端な言い方をすれば、その便利さに溺れ、企業にお金を搾取されてしまっている人が増えているのです。
お金で「時間」や「プロの力」を買うことはいい方法です。注意すべきは、すべてをお金で買えると勘違いしないこと。なぜならお金は有限だから。朝、15分だけ早起きしたり、タイマーを上手に使うことによって、家事の時間をつくれるかもしれません。子どもにお願いすれば、お手伝いをしてくれます。また、掃除や食事を、そこまで完璧にしなければダメでしょうか。ちょっとした生活習慣の見直しで、無駄なお金を使わずにすむようになるでしょう。
こうした、気づきにくい家計のリスクを排除するためには、現在の家計状況を把握する必要があります。そして、改善のための実行に移すには、長期のライフプランを考えることが一番です。
頭では「人生100年時代」とわかってはいても、目の前のことに追われてしまうことは多いもの。しかし、長いスパンで人生を考え、「教育費と住宅ローンがかかるから、ここで貯蓄がグッと落ち込むのだな」「退職金を得られることによって、ここで貯蓄ができる」「ここから先は貯蓄を切り崩すスピードを落とすために、この辺から支出を減らす生活に慣れないとダメだな」などとシミュレーションをすれば、「なぜ、いま節約をしたり、自分の消費行動を変えなければならないのか」が納得でき、無理なく実行できます。
▼あなたやパートナーの日常をチェックしてみよう!
5つ以上当てはまる人は、お金が貯まらない性格や行動習慣を持っている可能性大。

(1)家事代行サービスをよく使う
(2)習い事のレッスンは、グループよりも個別を選ぶ
(3)副業をしている、または、したい
(4)家計簿をつけると安心する
(5)買い物はクレジットカードで支払うことが多い
(6)コンビニによく行く
(7)冷暖房やテレビをつけたまま寝てしまうことが多い
(8)スマホゲームにハマっている
(9)食材にはこだわりが多い
(10)子どもの教育ではまわりに出遅れてはいけないと思う

(1)(2)が当てはまる……「タイムイズマネー」夫
(3)が当てはまる……「金持ち気取り」夫
(4)(5)が当てはまる……「超大雑把」妻vs「エクセル管理」夫
(6)~(10)が当てはまる……「コンビニちょこ買い」夫vs「不安先走り」妻

■「合理的」なのに、ちっとも貯まらない「タイムイズマネー」夫

【年収800万円】田中家
●家族構成/夫47歳(会社員)、妻45歳(会社員)、長男12歳

・「合理的に」が口グセ
・家事も代行に発注
・コーディネートはプロにお任せ

▼完ペキ主義の人が陥りがちな落とし穴とは

田中家(仮名)の夫は、お金で「時間」や「プロの力」を買うことが、合理的で豊かな生活につながると考えていた。
たとえば洋服なら、自分でコーディネートを考えるのは時間の無駄だし、あげく「やっぱり自分に合わない」と着なくなるとロスが出てもったいない。それならパーソナルコーディネーターに春夏、秋冬に、買い物に一緒に行って選んでもらい、まとめ買いするのがいい、といった具合だ。年1回のコンサルタント料のほか、購入した洋服の金額に応じて報酬を支払っているという。これらの支出は、毎月の家計簿には含まれておらず、見えない赤字となっている。
夫の合理主義はこれにとどまらない。「体が資本だから」と健康を維持するためにパーソナルジムに通う。さらに、「忙しくて時間がないからといって、食卓が貧相になったり、家の掃除がおろそかになったりするのはイヤ」などと理由をつけては、週3回の家事代行サービスを依頼し、掃除に加え常備菜まで作ってもらう始末。
そんな夫に対し、妻は「いくらなんでもやりすぎでは」との疑念を抱いていた。だが夫に、「もし家事をしっかりやろうと君が頑張ったら、体調を崩すかもしれない。それで医療費がかかったら非効率」と言われると、反論できなかった。
しかし、家計は赤字なのだ。そこで、パーソナルジムに通う回数を減らしたり、栄養素を効率よく摂るためのサプリの種類を減らした。家事代行も、ある週は掃除だけ、ある週は料理だけ、というふうに、都合に応じて一部だけを利用するように切り替えた。パーソナルコーディネーターはまだ続けているが、夫のこだわりがあるので、しばらくは仕方のないところだろう。

■副業解禁! 収入アップで気持ちが大きくなる「金持ち気取り」夫

【年収800万円】森田家
●家族構成/夫42歳(会社員・企画営業)、妻42歳(パート)、長女15歳、次女11歳

・最近の口グセは「オレがおごるよ」
・副業への投資として支出も増えぎみ
・臨時収入がパラパラと入ってくる

▼副業の収入分は取り分けておくのが鉄則

年金制度や雇用環境が不透明さを増す中、副業を解禁する企業が増えている。森田家(仮名)の夫が勤める会社もその1つ。趣味のオートバイに関する知識を生かしライターの仕事を始めることにした。最近では月7万円程度をコンスタントに稼げるようになっていた。
じつはこの副業によるお金、当初は「夫婦の老後のために蓄えよう」と夫婦で話し合っていたもの。ところが、夫の口座にパラパラとお金が振り込まれるものだから、夫は「“臨時収入”が入りお金に余裕ができた」という感覚に陥ってしまった。家族で出かけるたび、ちょっとだけ贅沢な外食をしては「ここはパパが払うから」とちょっとした金持ち気取りをするように。また、ライター業の主なネタ元は自分が所有しているオートバイ。記事を発信して反響があると気持ちがいいから、そのオートバイにかけるお金や時間もどんどんエスカレートしていく。
副業で収入が増えたはずの家計は赤字に転落。夫の本業での収入は年俸制なので、赤字分をボーナスで補填することもできない。これに危機感を持ったのは妻だった。なんといっても家計に大きなダメージを与えていたのは外食代。副収入が増えたことによる支出だ。そこで夫には「そもそも、何のために副業を始めたのか」という初心に立ち返ってもらうところから話し合いを始めた。「お金を貯めたい、残したい」という思いは夫も同じ。お金の使い方を改める必要性には、すぐに気づいてくれた。
現在は、副収入は別の口座に分けて管理し、いっさい手をつけないようにしている。副業は転ばぬ先の杖となるが、収入増による支出増という落とし穴にはくれぐれも注意したい。

■どんどん使う「超大雑把」妻vs細かすぎる「エクセル管理」夫

【年収500万円】西山家
●家族構成/夫44歳(会社員・経理)、妻39歳(パート)、長女4歳

・整理整頓は大キライ
・お金はあるだけ使う
・家計簿をつけることに使命感

▼あったら使う妻には「電子マネー」がおすすめ

西山家(仮名)の妻は大雑把な性格が災いし、お金を使いすぎてしまう。結婚時にはクレジットカードのリボ払いが60万円ほど残っていた。一方、勤務先で経理畑を歩んできた夫にしてみれば、借金があるなど由々しき事態。そこで「家族になるんだから」と自分の貯金を使い、妻の借金をすべて清算した。
そんな経緯もあり夫は妻の家計管理能力を信用していない。食費に関しては、大手総合スーパーが発行する電子マネーを活用することにした。買い物ができる店が限られ、金額も入金した分だけに制限できるからだ。ところが妻から「子どもの習い事の月謝が上がった」「子どもの服を買わないと」などとお金を求められては、追加でお金を渡してしまう。夫のやさしさが家計的には悪い方向に働いた形だ。結果、月3万円ほどの赤字家計に陥った。
そこで几帳面な夫は、家計状況をエクセルで整理し、それを妻に見せながら「まず、食費を○%削ろう」などと、費目ごとに具体的な指針を示す。しかし、大雑把な性格の妻に伝わるはずもない。せっかくエクセルで家計を分析しても、妻が納得しなければ無用の長物になってしまうということだ。
実際に家計を見ていくと、生活日用品代、被服費、交際費、娯楽費の多くは妻がらみの支出が占めていた。そこで妻には、小遣いの中でそれらをやり繰りしてもらうようにした。「私にもお金の管理ができる」という自信を持ってもらう狙いもある。また、食費については電子マネーで月5万円分を妻に渡し、基本的にはそれ以上の追加はなし。その代わり、ほかに外食予算として5000円の余裕を持たせるようにした。いまのところ、家計は黒字に改善している。

■地味に家計を侵食「コンビニちょこ買い」夫vs「不安先走り」妻

【年収1100万円】近藤家
●家族構成/夫43歳(公務員)、妻40歳(主婦)、長男7歳、長女4歳

・産地や添加物にこだわる
・流行に乗り遅れたくない
・おやつ、つまみをちょこちょこ買う

▼夫のおやつ代は自己管理させよ

近藤家(仮名)の夫は、金遣いが荒いわけではない。ところが、ちょっとした夫の行動がボディブローのように家計を圧迫していた。平日は残業もほとんどなく早い時間に帰ってきて、たっぷりある時間を持て余してか、コンビニに出かけてはビールやつまみを買ってくる。そして、「家計の食費から出してね」とお金を要求するのだ。
週末に家族で買い物に出かけると「この牛乳じゃないとダメなんだよね」などと言いながら、自分好みでちょっと高めの食品を買い物かごにポイポイと入れていく。大好きなお菓子もまとめ買い。金額は大きくなくても、細かいことが気になる性格の妻の不満は積み重なった。さらに妻の感情を逆撫でしたのが、日々、課金ありのスマホゲームに熱中する夫の行動だ。妻としては、夕食後の片づけなどをこなしながら、子供の宿題を見たり、翌日の準備などで自分はずっとバタバタしている。一方、夫はソファでごろんとしながらゲームに興じ、テレビも見ていないのにつけっぱなし。
「節約したいのに、夫が食費、通信費、水道光熱費などで協力してくれない」――それが妻の主張だ。ところが、よく話を聞いてみると、妻の“不安が先走る性格”も家計を圧迫していた。「有機野菜でなければ」「肌の弱い子どもには特別な肌着を」「子どもの習い事で周囲に遅れたくない」といった具合に、少しずつ支出がかさんでいたのだ。
これに対し、夫は夫で不満を持っていた。要は、夫婦それぞれに無駄だと思っている費目が別々だったのだ。解決策としては、互いの価値観を理解して歩み寄るのが一番。近藤家の場合、収入が高かったこともあり、ちょっとした見直しだけで赤字家計が黒字家計になった。
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横山光昭
家計再生コンサルタント
マイエフピー代表。ファイナンシャルプランナー。55万部を超えるベストセラー『はじめての人のための3000円投資生活』など著書多数。
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(家計再生コンサルタント 横山 光昭 構成=小澤啓司 写真=iStock.com)